東日本大震災アーカイブ

放射線 放射性物質 Q&A 「1ミリシーベルトにこだわらない」の意味は

 除染の進め方を日本政府に助言するため来日した国際原子力機関(IAEA)専門家が、長期目標の年間追加被ばく線量1ミリシーベルトについて「必ずしもこだわる必要はない」と発言しました。どういうことなのでしょうか。

【回答者】県放射線健康リスク管理アドバイザー長崎大教授 高村昇さん

■安全基準に一定程度の幅復興の過程に合わせ策定

 放射線防護に関する勧告を取りまとめている国際放射線防護委員会(ICRP)は、平常時の1年間の被ばくの限度は1ミリシーベルトとするよう勧告しています。
 一方でICRPは東京電力福島第一原発事故のような原子力災害が発生した場合、「緊急事態時」には被ばくの限度を年間100ミリシーベルトから20ミリシーベルトの範囲でなるべく低い線量にするよう求め、さらに事故収束後の「復旧時」は年間20ミリシーベルトから徐々に平常時の被ばくの限度である1ミリシーベルトに戻していくように勧告しています。
 これは100ミリシーベルト以上の放射線を一度に被ばくすると、がん発症リスクが上昇することを踏まえた上で、放射線災害による被ばくを合理的、かつなるべく低い線量に抑えるために作られた基準です。
 事故発生直後、日本では暫定基準値が設けられ、その後にさらに厳格な基準値が設定されました。これはICRPの勧告を基に、汚染された食事摂取による内部被ばくを最小限にすることを目的とした措置です。
 ICRPが勧告する放射線災害発生時の防護基準は、放射線被ばくによる健康影響について、これまで明らかになっていることを基本に、さらに十分な安全域を設け、除染など復興に向けた取り組みを考慮しており、さらには復興の過程に合わせ、ある程度の幅を持たせて策定されています。こうした事情が今回の発言の背景にはあると考えられます。

カテゴリー:放射線・放射性物質Q&A