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(54)ストレス 仮住まい神戸の教訓 心の平穏醸成に腐心 膝突き合わせて対話

神戸市内のネットワークの事務所。黒田さんは今も被災住民と向き合う

 「仮設住宅では問題が次から次に起きた」。阪神大震災の被災者に寄り添う「阪神高齢者・障害者支援ネットワーク」理事長の黒田裕子さんは振り返る。
 神戸市の西神第七仮設住宅。住民相互の意思疎通を図ろうと、敷地内で祭りをするとけんかを始める。パイプいすで殴り合ったり、包丁を持ち出したりした。時には警察の力を借りながら黒田さんは住民と向き合った。
 招かれざる客もやってきた。被災者の借金を回収しようとする債権者や、暴力団員だ。原因が分からない、ぼやも起きた。一歩間違えれば建物火災になりかねなかった。
 仮設住宅には、天災によってこれまでの生活を失った悲しみ、ぶつけようのない怒りが渦巻いていた。

 自室に閉じ込もり、人と接触しようとしない住民もいた。定期的なお茶会、朝と日中のラジオ体操、男の料理教室など思い付くことは全て企画した。悲しみを心にため込まないでほしい。孤独死を防ぎたい...。その一心だった。
 それでも外に出て他人と関わるのが苦手な住民には個別に対応した。1人1人の住宅を回り、悩みや困り事を聞き出した。「知り合いがいないんだ。1人ではお茶会に参加したくない」「他人と趣味を楽しみたいが、大人数の集まりに入るのは苦手」。膝を突き合わせて話すと住民は心を開いてくれた。気の合いそうな住民同士を引き合わせた。「誰かが心の手を差し伸べなければ、孤独をより深めたはず」
 阪神大震災から2年余りが過ぎると、仮設住宅にはある程度のコミュニティーが生まれた。しかし、今度は住宅の老朽化という問題が被災者を苦しめた。室内の畳がずれ、間から雑草が生えてきた。天井もずれた。雨や風が室内に入り込んでくる。
 「そもそも仮設住宅。何年もの雨風に対応できるはずはない」。黒田さんらは室内の草を抜き取り、ずれた天井には新聞紙を詰めて応急措置した。行政に対し、仮設住宅の環境改善、災害公営住宅の早期整備を要求する一方で、ネットワークに協力するボランティアらが率先して被災者の生活を支えた。

 自ら被災しながら献身的に仮設住宅の住民に向き合う黒田さんらの活動を、世間の一部からは偽善視する声が出た。「死にたいという人を助ける必要はない」「仮設住宅から出たくないという人を無理に外に出す意味はない。仮に亡くなったとしても個人の自由の結果だ」。しかし、決意は揺らがなかった。「そうと思われてもいい。目の前の被災者を救わないわけにはいかない」
 神戸市では災害公営住宅の建設が進められた。「住民が可能な限り不満を持たないよう公営住宅にスムーズに移転させなければならない」。黒田さんらは住民1人1人の意向を聞き取りながら、災害公営住宅への引っ越し準備を手伝った。
 仮設住宅で生まれたコミュニティーの維持、高齢者世帯の転居作業など、乗り越えなければならないハードルは高かった。

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