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(62)はけ口 アルコール 救いの手 ふさがらない心の傷 住民間のつながり大切

住民の健康状態をチェックする阿部さん

 被災地のアルコール依存症の問題は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故があった本県だけのことではない。平成7年1月の阪神大震災、平成16年10月の新潟県中越地震でも社会に影を落とした。
 新潟県小千谷市は家屋の倒壊などで19人の死者を出した。中越地震の被災市町村の中で最も多い。小千谷市健康センターの保健師阿部芳子さん(52)は当時、仮設住宅などを訪問し被災者から「酒を飲まないと不安で眠れない」と相談を受けた。被災者の心にあいた穴は地震から10年がたった今もなかなか埋まらない。当時の惨状を忘れられず、酒に逃げ込む被災者もいる。阿部さんは今も住民の悩みや不安の声に耳を傾けている。
 原発事故による長期避難が続く本県。仮設住宅や借り上げ住宅から、災害公営住宅に移っても、避難者の望郷の思い、古里を放射性物質に汚された怒りは消えない。生活再建が進んでいるように見える裏側には、心身ともに疲れ果てる避難者がいる。「アルコール依存症との闘いは新潟以上につらく、長い期間を要すはず」。阿部さんは隣県の状況に思いをはせた。

 マグニチュード6・8、最大震度7の地震が中越地方を襲ったのは16年10月23日午後5時56分。阿部さんは柏崎市の実家にいた。既に日が暮れていて、職場である小千谷市健康センターに向かったのは翌朝だった。
 しかし、道路は至る所で寸断され、何度も回り道を余儀なくされた。職場にたどり着いたのは午後3時ごろだった。避難所は市総合体育館に設けられ、着の身着のまま逃げてきた住民の対応に追われた。
 阪神大震災を経験した神戸市の保健師から「震災後は精神的な病気、循環器や心臓に関する病気が多くなる」と聞いたことがあった。高齢者の健康状態に特に注意を払った。
 ただ、「阪神」と大きく異なったのは、余震の多さだった。震度5弱以上は計19回、震度1以上は計973回を数えた。大きな余震のたびに避難者は不安に駆られた。「余震が恐ろしい。酔わないと眠れない」と訴える人もいた。
 話を聞いてみると、飲酒頻度と飲酒量が震災前より増えていた。阿部さんら保健師は避難所や仮設住宅を回り、健康相談を繰り返した。「誰かが話を聞いてあげないと」と信じて活動した。時間はかかったが「飲酒量が一定になった」「朝から晩まで一日中飲んでいたが、夜だけ飲むようになった」などの声が徐々に寄せられるようになった。
 仮設住宅は約3年で解消され、約1000世帯が災害公営住宅に移った。だが、災害公営住宅に入っても、精神的な不安から住民間のトラブルは続いた。意見の食い違いから上の階に住む住民が、下の階の住民に植木鉢を投げ落とす事件もあった。酒を飲んで妻に暴力を振るった夫もいた。

 被災者は何らかのトラウマ(心的外傷)や不安を抱えている。心的外傷後ストレス障害(PTSD)やアルコール依存症、うつ病、不眠などに発展するケースもある。「住民同士、住民と行政が、しっかりとつながっていなければならない」。被災者の心の傷を広げないよう根気強く見守っていくことの大切さを強調した。
 避難の長期化、生活再建の厳しさなど原発事故で古里を追われた人々には、今も数々の不安が渦巻く。精神的に耐えられるのか...。本県避難者の今後を憂える。

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