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(66)はけ口 アルコール 依存からの脱却 「二度と裏切らない」 元妻との再出発願う

酒を断ち、家を買った。別れた妻ともう一度やり直そうと考えている

 アルコール依存と闘う大熊町の元原発作業員の男性(59)は平成23年10月ごろから、県南地方の元妻のアパートで夕飯を食べるようになった。23年夏ごろに離婚した元妻(63)は、500メートルほど離れた別のアパートに住んでいる。
 「戸籍上は赤の他人だから『ごちそうになっている』と言った方が正しいかもしれない」。自炊できない男性に元妻は「夕飯とお風呂はうちで済ませても構わない」と言ってくれた。
 郡山市の大島クリニックや断酒会に通い、酒を断った男性の努力を元妻は見ていた。見捨てるどころか、酒を断ち、立ち直るのを待っていた。ありがたかった。手料理を作る元妻の心遣いが心に染みた。「この人を裏切るようなことを二度としてはいけない」と自らに言い聞かせた。

 新聞の折り込みチラシに不動産情報が載っていた。
 「冷やかしで見に行ってみるか」
 冗談めかして切り出すと、元妻はうなずいた。県南地方の中心市街地で中古物件を探し回った。どこも日当たりがいまひとつで、庭もなく、大熊町の自宅に比べて息が詰まりそうな印象を受けた。
 街中は駄目だ。東北新幹線の駅に近い所に日当たりが良く、70坪の土地があった。庭も造れそうだった。「ここにしようか」。即決した。
 元妻も気に入った。新築の間取りや水回りの仕様を決めていく打ち合わせは時間がかかり、面倒なときもあったが、元妻との会話が増えた。
 完成した家は2階建ての4LDK。大熊町の自宅に戻ることを諦めた男性にとっては、ついのすみかだ。昨年12月に建築業者から引き渡された。奮発して全室に冷暖房エアコンを完備した。浜通り育ちの2人にとって、県南地方の厳冬は身にこたえたからだ。
 「この家で妻とやり直す」。男性は誓った。
 新築の家をたまにのぞく。リビングに置いたソファとテーブルの配置が変わっていた。「私の好きなようにさせてね」と言っていた元妻が合鍵を使って来たんだと分かった。元妻との離れた距離が少しだけ縮まっていた。
 だが、アルコール依存の酒害で離婚した夫婦だ。大熊に住んでいたころのような関係には戻れないと覚悟している。むしろ、一線を引くべきとさえ思う。

 飲酒欲求を自力でコントロールできているが、アルコール依存症が完治したとは思っていない。寝付けない夜に再飲酒してしまうリスクが消えることはない。睡眠導入剤に頼る以外に今のところ対処法はなく、財布に薬を入れて持ち歩いている。
 アルコール依存は「一種の精神障害」と感じている。心に波風を立てないように暮らすことが断酒を続けるためには不可欠だ。元妻とやり直すことは、きっと精神の平穏につながると期待する。
 新築の家には電気も水道も引いてある。荷物を運び込めば同居生活は始められる。男性としては戸籍上のよりを戻してほしいが、強要するつもりはない。彼女の人生をも狂わせた負い目がある。
 「万が一、再飲酒したらそれで終わり。俺が家を出る」。男性は覚悟の一方で「何でこんなことになったのか」と東京電力福島第一原発事故発生後の行いを悔いる。
 「原発事故さえなければ大熊の自宅で平々凡々と2人で暮らしていたはずなのにな」
 =「はけ口 アルコール」は終わります=

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