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2人の笑顔桜に重ね 「きっと喜んでいる」

■いわき市平豊間 鈴木富士子さん(52)夏美さん(19)

 いわき市平豊間の会社員鈴木順一さん(56)は東日本大震災の津波で、妻の富士子さんと長女の夏美さんを失った。外は桜が見頃になった。夏美さんが通ったさいたま市の大学にある、しだれ桜が目に浮かぶ。同級生が夏美さんを忘れないように植えた。社会人1年生になっていたはずの、まな娘の笑顔が花びらに重なる。

 「作業療法士になるんだ」。夏美さんは夢に向かっていた。市内のいわき光洋高を卒業し、平成22年4月にさいたま市の目白大へ進学した。
 きっかけは小学生の時だった。同居していた祖母のタケ子さんが、思うように体を動かせなくなる。夏美さんは優しく介助し、毎日食事の世話をした。タケ子さんは18年7月に78歳で帰らぬ人になったが、「おばあちゃんのように、困っているお年寄りの手助けをしたい」と作業療法士の道を志した。
 大勢の友人に囲まれて高校生活を送った。卒業式に、富士子さんが成人式で着た振り袖で臨んだ。出席した富士子さんは、思い出の着物に身を包んだ一人娘に目を細めた。成人式でも着る約束をしていた。
 富士子さんは和歌山県で生まれた。いわき市の親戚宅を訪れた時に順一さんと出会う。互いに引かれ、知り合ってから約1カ月後の昭和62年9月に結婚した。いつも笑顔を絶やさず、夏美さんと長男の良太さん(25)を育てた。
 家族でたびたび旅行に出掛けた。震災が発生する約1カ月前の平成23年2月、富士子さんと順一さんは、勤務先の神奈川県に住んでいた良太さん、埼玉県にいた夏美さんと待ち合わせをし、神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮で参拝した。並んで撮った写真が家族の最後の1枚となった。
 震災発生時、春休みで帰省していた夏美さんは、富士子さんといわき市平の美容室にいた。翌日は家族で栃木県那須へ旅行する予定だった。夏美さんが髪を切り終えたころ、大きな揺れに襲われた。富士子さんと夏美さんは「おじいちゃんが残っているから」と、自宅にいた祖父の清秋さん(89)を案じ、車で向かった。途中で津波に遭ったとみられている。
 約2週間後、夏美さんは自宅のある豊間から北側の薄磯地区で発見された。富士子さんは震災から約3カ月後、夏美さんが発見された場所から約10メートル離れた場所で見つかった。
 順一さんは3月24日、目白大に招かれ、東京都で行われた卒業式に臨んだ。夏美さんと富士子さんの遺影を持ち、夏美さんと同じ保健医療学部作業療法学科の同級生らと集合写真を撮った。さいたま市の校舎に夏美さんをしのぶ桜を植樹するため、学内に募金箱を設けた友人だ。「本当にありがとう。夏美もきっと喜んでくれている」。今月5日、順一さんはさいたま市の校舎を訪ねた。「故鈴木夏美記念樹」。震災の翌年の春、校舎近くに植えられた、しだれ桜は花を咲かせていた。
 いわき市も薄いピンク色に包まれ、春一色になった。順一さんは仕事前に携帯電話を開く。夏美さんと富士子さんが変わらずほほ笑んでいる。「今日も頑張るよ」

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