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(67)絶望 追い込まれた命 大地汚され死選ぶ 悩み刻んだ歩数計

父久志さんが自ら命を絶って3年。「何でおやじは関連死に該当しないのか」。和也さんのわだかまりはとけない

 須賀川市の農家樽川和也さん(38)は東京電力福島第一原発事故発生直後の平成23年3月24日、共に農作物を育てていた父久志さん=当時(64)=を失った。自宅裏で自ら命を絶った。
 政府が県に対し、キャベツなど結球野菜の出荷を制限した翌日だった。原発事故によって放射性物質が、県内に拡散し、先祖代々守ってきた大地を汚した。将来に絶望して自殺に追い込まれたと考えている。
 遺書はなかった。
 あの日、久志さんは夜が明け切らないうちに作業着に着替え、家を出たようだった。キャベツ畑を見て回ったのだろうか。生と死のはざまで揺れ動いたのだろうか。自宅裏で発見された久志さんの歩数計は700歩近くになっていた。
 「出荷できずに廃棄処分するしかなくなったキャベツの写真でも撮っているのかと思った」
 和也さんは畑が広がる自宅裏で久志さんを見つけた。呼び掛けに応じない。駆け寄ると、既に息をしていなかった。知人に救急車を呼んでもらい、到着するまでの間、毛布を掛けて後ろからずっと抱きしめていた。「温め続ければ、まだ助かるかもしれないと思ったから」
 警察の検視に立ち会い、葬式の段取りに追われた。突然のことで気が動転していた。父親を失ったという現実感に乏しかった。
 喪主は農家8代目で、次男和也さんが務めた。葬式は自宅だった。焼香に訪れた久志さんの友人に肩を抱かれ、励まされた。久志さんは農閑期に妻の美津代さん(64)とお遍路の旅をしたいと言っていた。父親の小さな楽しみをかなえてやれなくなった。棺おけには四国88カ所霊場の地図と御朱印帳を入れた。「あっちで迷子になるなよ」と声を掛け、ひつぎのふたを閉めた。「おやじは、もういない」。虚無感しかなかった。
 久志さんと和也さんが丹精込めて育てた7500個の無農薬キャベツは、出荷直前だった。原発事故さえなければ流通していた。毎年、1.8キロぐらいになる大玉で、甘くて食感が良いと評判だった。市内の学校給食にも使われていた。
 うまいキャベツの作り方をもっと教わりたかった。もう少し酒を酌み交わしたかった。農作業後に飲んだビールの味が忘れられない。近くにいてくれるだけで良かった。「自分の体で覚えろ」と繰り返した久志さんの声が耳から離れない。「厳しくても優しい、おやじだったんだ」
 久志さんの死から3カ月余り経過したころ、市役所に和也さんの姿があった。
 「震災関連死として認めてほしい」。残された美津代さんと2人では手入れできる畑は限られた。作付面積を縮小せざるを得ない。作っても風評で売れるかどうか分からない。これからの生活が見通せない。「原発事故で一家の人生が狂ってしまった」。そして何よりも、原発事故によって命を絶った父の無念を晴らしたかった。
 当時の市担当職員は首を横に振った。「震災で亡くなったわけではないですよね。現在の基準では震災関連死に該当しません」
 自殺だから駄目なのか。原発事故と自殺は関係ないというのか。釈然としなかったが、「方針が変わったら連絡します」と聞いて引き下がるしかなかった。
 後に双葉郡8町村や南相馬市の審査会が、原発事故が原因となった自殺を震災関連死に含め、遺族に災害弔慰金を支払っているのを知った。
 「おやじは原発事故によって自殺に追い込まれたのに、関連死として扱われていない。人の命に差があるのか」。東日本大震災から3年余りが過ぎた今も、割り切れぬ思いを抱えている。
   ×   ×
 原発事故で将来を悲観し、自ら命を絶つ人がいる。内閣府のまとめでは、震災と原発事故が原因とみられる県内の自殺者は昨年末現在、被災3県で最も多い46人に上る。しかし、県内には自殺を関連死に認定する統一基準はなく、専門家は「市町村間で関連死認定の判断が分かれている」と指摘する。長引く避難生活や放射性物質にあえぐ県民は翻弄(ほんろう)されている。

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