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(69)絶望 追い込まれた命 東電は謝罪を拒否 市が認定申し出を受理

「おやじは原発事故に命を奪われた」。無念を晴らすために和也さんは東電に謝罪を求めた

 須賀川市の農家樽川久志さん=当時(64)=は農作物の出荷制限が発令された翌日の平成23年3月24日、自宅裏で命を絶った。次男で後継ぎの和也さん(38)ら遺族は同年秋、東京電力に対し損害賠償を求めたが、木で鼻をくくったような返答が戻ってきた。「福島第一原発事故と自殺の因果関係は認められません」
 「原発事故さえなければ、おやじは死ななかったんだ」。和也さんは一貫して主張した。話し合いは平行線をたどった。「このままでは死んだおやじに申し訳ない」。直接請求から約8カ月後の24年6月、裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てた。慰謝料や葬儀費用などを請求したが、本当の目的は「東電からの謝罪」だった。
 お金でおやじが戻ってくるわけじゃない。ただ、弔意を示してほしい-。
 それから約1年後、東電は態度を一変させた。25年5月末、和解が成立した。原発事故が原因で自殺したケースで、東電が賠償金を支払うとしたのは初めてだった。
 自宅の仏壇には、統計調査員を務めていた久志さんの証明写真が遺影として飾ってある。「おやじ、東電が責任を認めたぞ。2年もかかったけど、安らかに眠ってくれ」。そうは言ってみたものの、割り切れぬ思いが心にさざ波を立てていた。
 東電は慰謝料や葬儀費用の支払いには応じたが、謝罪には「ご容赦いただきたい」と書面で拒否した。後日、東電に再度、謝罪を求めたが、「会社の最終判断」とかたくなだった。
 和也さんの「おやじの仏前に線香1本でも上げてもらいたい」という願いは、はねのけられた。「1人に頭を下げたら、みんなに頭を下げて回らなければならなくなる。東電はそれが嫌なんだべ」
 なぜ、東電が和也さんら遺族側に歩み寄ってきたのかは分からない。ただ、各市町村の災害関連死審査会の中には、自殺と原発事故の因果関係を認め、遺族に災害弔慰金を支払うケースが出ていた。弁護士の話から、それを知った。「審査会が因果関係を認めたからには、東電も考え方を変えざるを得なかったんだと思う」
 和也さんが災害弔慰金の相談で、須賀川市役所を訪れてから、間もなく3年になる。「関連死には該当しません」。当時、窓口の職員からはっきり告げられた。「支給方針が変わったら、連絡します」とも言っていたが、音沙汰はない。
 災害弔慰金制度は自然災害の犠牲者を対象にしている。国は原発事故から約2カ月後の23年5月、原発事故に伴う死は「災害弔慰金の支給等に関する法律」第二条の「異常な自然現象により」生ずる被害に含めてよいとの見解を示し、関連死に認定するよう県に通知した。しかし、その文言は「避難のための移動や避難所生活等を原因とする死亡」で、自殺は明記されていなかった。
 久志さんは避難していないし、避難所生活もしていない。でも東電はADRで因果関係を認めた。久志さんは、放射性物質によって大地を汚され、農業の将来を悲観し自殺した。そう確信していても、市役所に再度、災害弔慰金の受給相談をすべきか逡巡(しゅんじゅん)してきた。
 和也さんは21日、わだかまりを抱えたままの生活を終わりにしようと、災害関連死の認定申請に赴いた。「世間に原発事故の関連死として認めてもらいたい」。須賀川市は連絡が途絶えていたことをわびた上で申し出を受理した。

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