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(1)都路・避難指示解除1カ月 黄金色の水田 再び

パイプハウス内で苗の生育を見守る森谷さん

「やっぱり、苗が育つ姿を見るとやる気が出る」
 避難指示が今月1日に解除された田村市都路町の小滝沢集落で4年ぶりにコメ作りを再開した森谷市男さん(65)は、自宅隣のパイプハウスで汗を拭った。視線の先には20日に種まきし、約3センチに育った苗がびっしりと並んでいる。
 森谷さんは1日以降、営農再開のため市内船引町の仮設住宅から荷物を運び、妻のハルイさん(60)と21日に自宅に戻った。祖父の代から受け継がれている水田のうち、今年は半分の約1ヘクタールに「ひとめぼれ」を植える。現在は家に寝泊まりしながらパイプハウスの温度や水の管理に励んでいる。「初めのうちは昔の勘を取り戻すのが大変だったよ」と戸惑いを口にするが、今のところは作業は順調だ。天候次第だが、5月下旬の田植えを予定している。
 一番、気掛かりなのは収獲後のコメの放射性物質の値だ。都路町の別の地域で昨年生産されたコメからは基準値を超える放射性物質は検出されていない。だが、地形の違う小滝沢では結果が出るまでは安心できない。森谷さんは放射性物質の吸収を抑えるカリウム肥料を注文するなど対策を進める。イノシシの侵入を防ぐための電気柵も水田の周囲に巡らせた。
 市によると、避難指示が解除された都路町東部(東京電力福島第一原発の半径20キロ圏)には、原発事故前まで64戸の稲作農家があった。今年、コメを作付けするのは十数戸。昨年の3戸から増えるが、放射性物質への不安などから再開に二の足を踏む人も少なくないという。
 森谷さんの小滝沢集落では、10戸のうち4戸が再開する。2月の大雪でハウスが壊れたため、再開を来春に持ち越した仲間もいる。森谷さんは「今年、コメを作れない人の分も頑張る」との思いで挑んでいる。
 小滝沢集落は東日本大震災と原発事故前まで、近所同士が互いの家を往き来し、酒を酌み交わす住民間のつながりの強い地域だった。現在は避難生活を続けている家もあり、まだ人や車の通りも少ない。
 「自分たちがコメ作りを成功させた姿を見せることで、意欲を取り戻す人が少しでも増えてほしい」。森谷さんは山里の穏やかな景色を眺め、黄金色の穂が広がる秋を想像した。
 東京電力福島第一原発事故に伴う田村市都路町の避難指示が解除され、5月1日で1カ月を迎える。旧警戒区域で初めて自由な居住が実現したが、放射線や生活環境への不安から古里に戻った住民は一部にとどまる。なりわいやコミュニティーの再生に課題を抱えながらも、いち早く帰還した人々の姿から、地域の現状を伝える。

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