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東電、和解案を拒否 浪江の精神的賠償増額「公平性保てず」 ADR形骸化懸念

 浪江町民約1万5000人が東京電力福島第一原発事故の精神的損害賠償増額などを求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)で、東電は原子力損害賠償紛争解決センターが提示した「一律月5万円」を増額する和解案を拒否した。26日までに町とセンターに伝えた。「高齢で病気の人」に限定し、月2万円を増額する。賠償額を迅速に確定するためのADRだが、東電の和解案拒否が相次いでおり、制度の形骸化も指摘されている。
 センターは、一律月5万円の増額に加え、75歳以上の高齢者には、さらに3万円を加算する和解案を示していた。東電はこれを拒否した上で、原発事故発生時に75歳以上の高齢者で傷病があった人を対象に、平成24年3月までの13カ月分は月2万円増額する「一部受諾」の回答をした。
 東電側は和解案について、個別事情を考慮せず一律の増額を認めていることについて「(精神的賠償額を月10万円とした)中間指針と懸け離れる」と指摘。他の避難者らと公平性の面で「影響が極めて大きい」と拒否した理由を示した。
 東電側の回答に対し、町支援弁護団(代表・日置雅晴弁護士)は「一部受諾という形式をとっているものの、実質は全面拒否回答に他ならない。著しく不当」と声明を発表し、和解案の受諾をあらためて求めた。弁護団は同日、センターに対し、東電が和解案を受け入れるよう求める上申書を提出した。
 馬場有町長は「東電の回答は受け入れられない」と述べ、「和解案拒否は、町民に新たな精神的苦痛をもたらす」と訴えた。
 東電は「慎重に検討した結果、今回の回答に至った。今後も引き続き、個別の事情に応じて協議、対応したい」とコメントした。
 今回のADRは、町民約1万5000人が申立人となり、中間指針で示した月10万円の精神的損害賠償について、25万円を増額した一律35万円を支払うよう求めていた。町は、センターが提示した一律5万円増額の和解案の受け入れを表明していた。

■解説
 東電が政府の原子力損害賠償紛争解決センターによる裁判外紛争解決手続き(ADR)による和解案を拒否した背景にあるのは、原子力損害賠償紛争審査会が精神的賠償の中間指針で示した「月10万円」と、一律5万円を上積みする和解案との金額面の大きな隔たりだ。
 和解案と中間指針が乖離(かいり)した場合、受諾拒否が相次ぐ可能性があり、和解案と中間指針の整合性をどう取っていくかが課題となる。
 さらに、今回の和解案は申し立てを行った浪江町民約1万5000人を対象に「一律5万円増額」としている。東電は「個別の事情を考慮することなく、一律に精神的損害を増額するような場合は受諾できないこともある」としており、集団申し立ての難しさも示した。
 ADRは、和解案提示までの時間が民事訴訟に比べて短く、被災者の早期の生活再建につながるのがメリットとされる。しかし、和解案に法的な強制力がなく東電が一部拒否したり、受諾するかどうかの回答期限の延長を求めたりするケースが出ており、専門家からはADRの形骸化を懸念する声も上がる。
 東電は昨年12月にまとめた再建計画で、原子力損害賠償「三つの誓い」の一つとして「和解仲介案の尊重」を掲げている。
 今後、東電側の受諾拒否による和解不成立が相次げば、センターの和解仲介能力が問われ、センターの存在意義を失う事態になりかねない。(本社報道部・神野誠)

カテゴリー:福島第一原発事故

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