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福島をつくる(18) 第1部 企業の覚悟 向山製作所(大玉)

会社の調理場で生キャラメルを製造する従業員。ひと鍋ごとに手作りして独特の味わいを引き出す

<風評 立ちはだかる>
 大玉村の電子部品製造業「向山製作所」が作った生キャラメルは国際線のファーストクラス採用を打ち切られた。東京電力福島第一原発事故で、県内の一部の原乳から食品衛生法の基準値を超える放射性物質が検出され、あおりを受けた。社長の織田金也(50)は平成23年3月20日の朝、従業員に告げた。
 全員が言葉を失った。「これから日本中に、世界に知ってもらえる機会だったのに...」。すすり泣きが漏れる。織田は声を振り絞った。「やり直すしかない」

 試練は続いた。県内の乳業会社のプラントが東日本大震災の揺れで壊れた。生キャラメルの原料となる生クリームが手に入らなくなった。県内産の高品質な素材を使った手作りの味が売りだった。北海道から九州までさまざまな生クリームを取り寄せたが、出来上がりはまるで別の味がした。
 生キャラメルは原料をひと鍋ごとに熱して作る。練り方や調理時間、火加減などで味が変わる。慎重な手作業が豊かな風味や濃厚で上品な味わいを引き出す。
 製造担当の伊東真知子(34)ら従業員3人は県外産の生クリームなどを混ぜる割合を変えながら味の再現を試みた。失敗の連続だった。納得のいく味にたどり着くまで1カ月程度を費やした。23年5月、ようやく販売を再開したが、新たな壁が前をふさぐ。

 23年5月11日、東京の老舗百貨店で約1カ月間の催事販売を始めた。販売担当の武藤奈緒美(25)は、生キャラメルを試食した客から言われた言葉を今も忘れられない。
 「どうして福島で作ったって早く言ってくれないの。もう食べちゃったじゃない」。客が試食品を口にした後、どこの会社か聞かれた。福島県だと答えると、形相を変えて怒りをぶつけられた。
 百貨店には「どうして安全かどうか分からない福島の食品を売るのか」と苦情が寄せられた。
 商品に放射性物質が入る余地はない。いくら説明しても納得しない客がいた。最後は放射性物質が混ざっていない証しとして、県の研究機関の検査結果書類を商品ケースの上に掲げた。「こんな紙が必要になるなんて」。織田は情けなく感じた。
 商品への自信さえも揺らいできた。菓子の価値や技術力をもう一度確かめたいと思った。風評の逆境の中、織田は新たな挑戦を模索し始める。(文中敬称略)

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