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今を生きる 南相馬で代表作を 市民と対話縁深まる 祖父、両親ゆかりの地に移住

南相馬市での新生活をスタートさせた柳美里さん

■芥川賞作家 柳美里さん 46

 芥川賞作家の柳美里さん(46)が、神奈川県鎌倉市から南相馬市に移住した。7日、原町区の借家に家財を運び込んだ。原町は柳さんの祖父と両親が一時住んでいた土地。柳さんは震災後、市臨時災害放送局「南相馬ひばりエフエム」に番組を持って同市に通い、親しい友人もできた。縁が深まった土地に居を定め、長男も地元の高校に進学することにした。「転居を機に南相馬で代表作を書きたい。地元の人と劇団も立ち上げたい」と話している。

 柳さんは東京電力福島第一原発事故の直後から浜通りに通い、平成23年3月からはひばりエフエムの「ふたりとひとり」という番組で、毎回2人の南相馬市住民らと対話してきた。これまで約300人の人生に向き合い「人間関係は鎌倉より親密になった」という。
 一方で1年の3分の1は自宅の長男と離れているため、長男の高校進学の時期に合わせて「いつかは住みたい」と思っていた南相馬に移住することにした。国内外を旅してきた経験から、「よそ者」を受け入れてくれる南相馬の自由な風土もしっくりきた。
 祖父は昭和30年代に原町の中心街でパチンコ店を経営し、柳さんが生まれる直前まで父母も原町で暮らした。南相馬市に通ううち祖父や父を知る人にも出会い、懐かしい写真も見せられた。不思議な縁を感じた。
 南相馬に入り込んだ経験は、昨年出した小説「JR上野駅公園口」の題材になった。次作「警戒区域」も間もなく出版となる。
 鎌倉の自宅は売却する。震災後の相馬野馬追を見て「逆境の中で立ち上がろうとする人の背骨、誇りを感じた」という。「私も退路を断って旗を揚げようと思った」という。
 旗揚げには劇団創設も含まれる。「役者もスタッフも地元の人でつくり上げたい」と思っている。本県の若い力を育てるため、地元の高校で文章表現や演劇による自己表現に関する講座を行うことも考えている。
 7日は鎌倉から到着したトラックから家族とともに大量の蔵書などを運び込み、新生活をスタートさせた。

■柳美里(ゆう・みり)
 昭和43年、茨城県土浦市生まれ。同59年、東由多加さん率いる劇団「東京キッドブラザース」に入り役者、演出助手などを務める。平成9年、「家族シネマ」で芥川賞受賞。近作に「貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記」。

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