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猪苗代で決意の船出 自然、人情・・・「心の古里」 観光復興に尽くす

猪苗代の魅力発信を目指して汗を流す岡本さん(左)

 半世紀にわたり猪苗代湖と桧原湖で遊覧船を運航する磐梯観光船(本社・猪苗代町)に今春、初めて県外出身者が入社した。千葉県松戸市出身の岡本翔(かける)さん(18)は、中学時代に訪れた猪苗代湖や磐梯山の美しさに魅せられ、高校卒業後、同社の門をたたいた。憧れだった遊覧船の乗組員として汗を流す。いつか船長になって多くの人に猪苗代の魅力と感動を届けたい-。風評被害で観光客が落ち込む地域を元気づけようと夢へ向け船出した。

■磐梯観光船入社 岡本翔さん(18)=千葉出身=
 「風が気持ちいい」「お父さん、あれが磐梯山」。こどもの日の5日、猪苗代町の翁島港から発着する磐梯観光船の遊覧船「かめ丸」と「はくちょう丸」から家族連れの歓声が響き渡った。乗船客を笑顔で送り出した岡本さんは、甲板で次の出航に向けた準備に取り組んだ。
 「猪苗代は心の古里。この素晴らしい自然と歴史・文化を伝えられる『福島人』になりたい」。仕事の合間を縫って、郷土資料などに目を通す。将来は船長として遊覧船ならではの魅力発信を目指す。
 同社への入社を決めたのは、東京電力福島第一原発事故の風評の影響で、東北有数の観光地が低迷する姿を、黙って見ていられなかったからだ。「自分の手で猪苗代をもり立てる」。強い決意で、同社の就職試験を受けた。これまで県外出身者の採用実績はなかったが、岡本さんの熱い思いに同社関係者も胸を打たれた。
 岡本さんは中学2年だった平成22年6月、林間学校で猪苗代町や北塩原村を訪れた。観光や農業体験を通して、猪苗代湖の美しさや磐梯山の壮大さ、住民の温かな人柄に心を奪われた。
 それから1年もたたないうちに、東日本大震災と原発事故が発生した。首都圏では時間の経過とともに福島の現状を伝える情報が少なくなった。同級生との会話などでも、風評被害の根深さを感じる時があった。そのような日々が、猪苗代への思いをさらに強めた。
 岡本さんを迎え、約20人の職場にも活力が出てきた。矢沢幸志社長(64)は「頼もしい若手が入ってきた。社員一丸となり一緒に頑張ろうという機運が高まっている」と話す。
 船長の資格を取るためには2年間の乗船経験が必要となる。岡本さんは、一歩ずつ、夢に向かって前進する考えだ。「猪苗代を愛する気持ちは誰にも負けない。大好きな仕事を通し、第二の古里に恩返しする」。猪苗代の明日は明るい。

【背景】
 磐梯観光船は昭和34年に設立された。59年には昭和天皇、皇后両陛下が猪苗代湖の遊覧船「かめ丸」に乗船された。猪苗代町を訪れる観光客は、東日本大震災発生前の平成22年に年間約210万人に上ったが、23年は約150万人と大幅に減少した。東京電力福島第一原発事故による風評の影響で教育旅行などの団体客が戻らず、26年は年間約170万人にとどまる。

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