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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第3部 課税(19) 納税、賠償金頼み 埋まらぬ損害 悪循環

避難先のアパートで領収書を手に決算書の作成に追われる西内さん。賠償金をもらわないと納税できない苦境にある

 所得税や法人税などの申告・納付の延長措置が3月末で切れた。東京電力福島第一原発事故で避難区域が設定された12市町村の個人・事業所に限り認められてきた。浪江町の西内石材社長、西内久志さん(50)は納税の意思はありながら期限に間に合わなかった。
 西内石材は原発事故の約3週間後から事業を再開した。家族経営の小さな会社だ。収入源だった墓石の販売がほとんどなくなり、東日本大震災で倒壊した墓石の修復工事を請け負ってきた。会社の収入のほとんどを社員の給料に回し、解雇だけは逃れてきた。「何とか会社を維持してきた。会社の決算をまとめる余裕すらなかった」
 避難先の福島市渡利のアパートに構えた事務所兼自宅には、4年分以上の領収書が束となる。帳簿の記入から決算書の作成まで1人で追われている。同社の決算日は納付期限日より1カ月後の4月30日。経理が終わらない以上、確定申告はできなかった。

 会社の収支を確定させなければならない理由がもう1つあった。「賠償金をもらわないと税金を払えない」。所得税や法人税などの納税額が膨らめば、手持ちの資金では心細い。最低限の運転資金は確保しておきたい。すがるところは未請求の賠償金しかなかった。
 平成23年7月に東電から損害賠償の仮払い金250万円を受けて以来、本格的な賠償金を請求していない。仕事の現場と避難先を往復する日々で、避難などに要した経費を会社分と個人分に仕分ける作業さえ進まなかったためだ。会社と個人の財物賠償も求めていない
 会社の存続を優先するあまり、後回しになった賠償金を、納税のために請求する羽目になるとは思ってもいなかった。営業損害賠償や財物賠償の一部は課税対象だ。納税するための賠償金で、また納税することになる。「自分の怠慢が招いた悪循環だが、これでは原発事故の損害を埋められない」。西内さんは首をかしげる。

 西内石材の本社は、福島第一原発から北西に約11キロの居住制限区域にある。東日本大震災では、沿岸部の墓地で墓石をつり上げるクレーン1台を流失したが、作業中の社員4人は無事だった。津波被害だけだったら、被災地の復旧が進めば、倒壊した墓石の修理依頼も徐々に増えていたはずだ。しかし、原発事故が全ての計算を狂わせた。
 設備投資の借入金は金融機関の口座から自動的に引き落とされる。このままでは破綻すると考えた。避難生活も落ち着かない中で働きだした。同業者から分けてもらった仕事などで、ほそぼそと経営を続けた。依頼があれば空間放射線量が1時間当たり10マイクロシーベルト超の墓地にも入った。
 「原発事故直後に事業を再開したのは正解だったのか、賠償金を受け取って事業再開を断念した方が良かったのか...」。今なお答えは出ない。

 政府は「生活再建」「事業再開」と避難者を鼓舞する。ただ、原子力災害の損害を埋め合わせるための賠償金で、国に税金を納めざるを得ない現実もある。納税は国民の義務だが、先行きを見通せない避難者には不条理な重荷と映る。課税をめぐる賠償の底流を追う。

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