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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第3部 課税(20) 将来設計不透明に 納税額に振り回され

避難先で亡くなった人の名を墓誌に彫る西内さん。工場の再稼働や設備投資は賠償額に左右される=4月、浪江町

 東日本大震災の津波で墓地が流された浪江町請戸地区に今春、共同墓地「町営大平山霊園」が完成した。400区画の大半が埋まり、同町加倉の西内石材にも墓石の新規建立の依頼が来た。
 「仕事がある浪江に拠点を置くのが現実的な選択だと思う」。社長の西内久志さん(50)は浪江の工場を再び稼働させようと考えている。ただ、これまでに東電から営業損害賠償を受け取らずに何とか経営を維持できたのは、稼働できない工場の光熱費などが掛からない上、固定資産税の減免や社会保険料の納期限延長などの特例措置があったためだ。
 墓石の修理が主な仕事となっている今では、持ち運び可能な機材で対応しているが、工場を本格稼働すると光熱費などの経費が大幅に増し、経営が成り立つのだろうか。営業損害賠償が口座に振り込まれたとしても、受取額の多くは、1000万円を超す社会保険料の納付分や納税分で消えると目算する。

 工場の再稼働に向けては、古里の不透明な先行きも二の足を踏ませる。町は東京電力福島第一原発事故から6年後の平成29年3月を避難指示解除の目標としている。「どれだけ住民が帰還するか。商圏としての可能性を見極めないうちは設備投資に手を出しにくい」とみる。
 故人の名を墓誌に刻む「字彫り」の受注が数10件たまっている。当面は、字彫りに使う古い機材を買い替えるなど手の届くところから徐々に設備を整えていかざるを得ない。
 今後の確定申告で、納期限を過ぎてしまった所得税や法人税など国税の課税額がいくらになるのか。納税額が想定以上に膨らめば、浪江の工場再開や事業展開の見直しを迫られる。
 「賠償金と税金にこんなに振り回されるとは思ってもみなかった」
 営業損害賠償がいつ打ち切られるかも不安材料の1つだ。東電は28年2月で営業損害賠償を終了する案を示した。その後、県内の事業者らの反発を受け、案を撤回。再検討しているが、見直しの方向性は明らかにしていない。

 国税庁が所得税の課税対象となる賠償項目をホームページで公表したのは24年11月。事業者の営業損害のうち、減収分の逸失利益に対する賠償金は事業所得に当たると明記されている。
 県内の事業者や商工団体は事業再開や復興の妨げになると抵抗した。せめて避難区域が設定された12市町村だけでも非課税にすべきだとの声も上がった。しかし、課税方針が覆ることはなく、国税の申告と納付期限は延長されたとはいえ、課税されることに変わりはなかった。

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