東日本大震災

「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

  • Check

第4部 精神的損害(23) 国主導で方針転換 住民の不安解消狙う

第5次提言の取りまとめに向けて協議する自民党東日本大震災復興加速化本部の会合。避難区域解除や賠償の在り方などが議論された=5月

 自民党の東日本大震災復興加速化本部が5月19日に東京・永田町の党本部で開いた幹部会。出席者の手元に、政府に提出する第5次提言の原案が配られた。非公開の議事を終えて退席した本県選出国会議員の一人が手応えを口にした。「復興の加速と被災者の自立につながる内容になった」。
 原案には東京電力福島第一原発事故に伴う居住制限、避難指示解除準備両区域の精神的損害賠償の方向性が示されていた。避難指示の解除時期に関係なく、賠償金は原発事故から6年後(平成29年3月)に解除された場合と同じく、その1年後の30年3月まで支払い続ける-との内容だ。政府は第5次提言を反映した復興指針改定を6月12日、閣議決定した。
 精神的損害賠償の方向性は復興指針に盛り込まれた。「周辺地域に先駆けて避難指示が解除された地域の場合、帰還した住民が生活再建するには、両区域全体の環境整備が不可欠。それまでは支払いを継続すべきと判断した」。政府関係者は理由をこう説明する。

 ただ、与党の提言と政府の復興指針には、早期の避難指示解除を実現するため、賠償に対する住民の不満を抑えたいとの思惑がにじむ。
 住民に一人当たり月10万円が支払われる精神的損害賠償は、避難生活を強いられた被災者が生活を維持するための貴重な収入源にもなっている。避難指示解除の時期が取りざたされる地域の住民には、解除により賠償支払いが終了することへの不安と不満が渦巻く。
 自民の提言取りまとめには、復興加速化本部の井上信治事務局長(45)=衆院東京25区=が調整役として奔走した。原発事故後に環境副大臣を務め、本県の実情を熟知している。中間貯蔵施設建設をめぐる政府と地元の交渉を手掛け、県幹部からの信頼も厚い。
 「賠償の打ち切りを理由に避難指示解除をためらう現実もあるだろう。(賠償の継続は)住民の不安解消が狙いだ」。6月下旬、衆院議員会館の事務所に姿を見せた井上氏は、政府・与党の方針に込められた別の側面を明かした。

 復興指針改定の閣議決定からわずか5日後、東電は指針に準拠した新たな賠償基準を発表した。発表文には「国からのご指導のもと」との文言が記された。
 本来、原子力災害の賠償は、被災者の住民や事業者からの請求に基づき、東電が支払う形が基本だ。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は「民間対民間」のやりとりを円滑に進めるため指針を示している。
 しかし、今回は自民党の意向が政府を通じ、東電の賠償基準に色濃く反映された。賠償が政治主導で進むとも受けとれる一連の動きとなった。
 井上氏は東電による賠償の一部に国費が投入されている点を指摘し、意義を語った。「被災者のためにも国が前面に立つ必要がある。与党もやるべきことをやる」
   +   +
 居住制限、避難指示解除準備の両区域の避難指示解除に向け、与党・政府が動きを強める。解除後1年で打ち切られる精神的損害賠償の方向性も転換された。地域と住民が再生の道を歩む中、賠償の在り方があらためて問われている。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧