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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第5部 財物(32) 和解勧告働き掛け 2つの基準に揺れる

自宅で放射線量の資料を広げる藤原さん

 「そもそも特定避難勧奨地点を指定する基準があいまいなんだ。それなのに何で指定の有無で宅地などの賠償に差が出るのか。理不尽だよ」。南相馬市原町区大谷地区の区長を務める藤原保正さん(67)は唇をかみしめた。
 政府は東京電力福島第一原発事故直後、放射線量が毎時3.2マイクロシーベルト以上の場合、1年間の積算線量が避難の目安となる20ミリシーベルトを超えると推定し、現地調査した。その結果、目安を上回った世帯と、それ未満でも子どもがいる世帯などを勧奨地点とした。大谷地区は31世帯のうち17世帯が対象となった。
 藤原さんによると、地区住民らは線量を下げようと事故直後に宅地の草刈りなどを自主的に行った。そのため、近隣の土地が目安以上の線量でも指定されないケースがあったという。
 藤原さん宅は勧奨地点から外れたが、現在も宅地周辺では線量計が1.0マイクロシーベルト以上という比較的高い数値を指す。「新たな土地に引っ越すべきか考えたこともある」というが、「お金がなくては何もできない」と愛着のある自宅に居続ける。ただ、地区内にとどまる若い世帯に目をやると黙ってはいられない。「将来のある彼らが新天地で土地や家を買い求めるためにも財物賠償は必要だ」と語気を強める。

 勧奨地点を抱える原町区馬場地区などの住民有志が資産価値を失った宅地などの賠償を求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解案に対し、東電は勧奨地点に設定されなかった非指定世帯への支払いを拒否した。精神的損害賠償と同様に財物の賠償も地区内の全世帯に支払われるとみていた住民には耳を疑うような回答だった。
 「財物賠償に応じない根拠はなんなんだ。賠償額の負担増が理由だとは思いたくないが...」。いら立ちを隠さない住民らは次の手を打つ考えだ。東電が拒否した非指定世帯の賠償について、原子力損害賠償紛争解決センターの仲介委員が東電に和解を勧告するよう求め、書類の準備に入った。

 住民らが勧奨地点の指定基準と賠償基準のはざまで揺れ動く中、藤原さんは「次の世代のためにすべきことは何か」と自問自答する。20ミリシーベルトを目安とした地区内の色分けの解消が最優先と考える。勧奨地点は昨年12月に全て解除されたが、財物賠償の問題が解決するまで色は消えそうにない。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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