東日本大震災

「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

  • Check

第5部 財物(36) 手続き複雑、断念も 森林の再生へ正念場

「損害があるのに泣き寝入りだ」。永沼さんは立木賠償の煩雑さを指摘する

 「賠償手続きが複雑で請求を断念する森林所有者は少なくない。原発事故による損害があるにもかかわらず、泣き寝入りだ」。ふくしま中央森林組合長の永沼幸人さん(75)は東京電力福島第一原発事故による立木賠償の行く末を案じる。

 阿武隈山系を含む10市町村を管轄する同組合は原発事故前、総収入の半分を田村市都路町で稼ぎ出した。地区面積の約8割が森林で、コナラやクヌギなどの良質なシイタケ原木の一大供給地として全国に知られていた。

 木炭需要の激減を機に昭和30年代後半に始まったシイタケ原木の生産は現在、林野庁の放射性物質指標値(1キロ当たり50ベクレル)を超える可能性があるため止まったままだ。都路に出されていた避難指示は平成26年4月に解除されたが、地域に収入と雇用をもたらした産業は再生の見通しが立たない。


 都路の山林はシイタケ原木となる広葉樹が、スギなどの針葉樹とモザイク状に生い茂っている。広葉樹の割合を正確に算出することは極めて困難だ。

 県内の人工林では、広葉樹が全体の約6割を占める。都路の割合はさらに高い。そのため、東電が示した賠償基準は、山林の8割が広葉樹と見なして単価を算出した。田村市のほとんどの地域は、立木賠償の定型単価が1ヘクタール10万円に設定された。

 課題となっているのが複数人で所有する「共有林」だ。都路の民有林のうち6~7割が該当する。請求手続きを煩雑にさせ、賠償を停滞させる原因となっている。

 ある山林の場合、大正3年に不動産登記され、権利者約30人が名を連ねている。既に亡くなった先祖や、地域住民ではないとみられる人が含まれる。先祖が森林の権利者になっていることさえ分からない人もいる。

 賠償を請求するためには登記名義人の子孫であることを戸籍謄本などで証明しなければならない。さらに、請求者の二親等内の親族からの同意が必要になる。賠償金をめぐって親族間トラブルになることもある。「手続きを簡素化する特別措置法を作るなど国の支援が今こそ必要」と永沼さんは提言する。


 シイタケ原木の伐採適期は樹齢20年前後だ。原発事故の影響で放置され、太くなった広葉樹は市場価値を失っている。それ以上に、先人が長年かけて築き上げた伐採、植栽、育成のサイクルが実質的に止まり、山が荒れた損失は大きい。

 「生活を維持し、失った資産価値を埋めるために賠償は必要だろう。しかし、それは一時的なもの。賠償金で森林が再生するわけではない。これからが正念場だ」

 永沼さんは木材の活用、林業者の雇用、放射線低減対策を一体的に進めなければ県内の林業に未来はないと考えている。

=第5部「財物」は終わります。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧