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福島をつくる(62) 第5部 酒づくり 県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター 吟醸酒に「設計図」

研究室で新たな酵母の研究を続ける鈴木

 会津若松市にある県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの研究室。冷蔵庫には、さまざまな酵母でつくった清酒が並ぶ。
 醸造・食品科長の鈴木賢二(54)は新たな酵母の研究を続けていた。「福島流吟醸酒製造」と書かれたマニュアルを常に傍らに置いている。質の高い吟醸酒を安定してつくるにはどうすればいいのか-。「職人の技」とされてきた酒づくりを、自らの手で理論立てて解き明かした前代未聞の「教本」だ。原料や管理法など11項目を簡潔に記し、県内の蔵元に新風を吹き込んだ。
 「慣習にとらわれない進取の精神がここにある」。鈴木は研究の集大成に目を細めた。

 鈴木が酒づくりの支援に携わり始めたのは平成5年。県職員になって9年目を迎えていた。それまではみそなどの研究が主で、清酒は未知の世界だった。
 当時、全国新酒鑑評会で評価される吟醸酒の研究は発展途上で、同じ指導をしても蔵によって香りやアルコール度数が予測と異なることが度々あった。「自分の経験こそが絶対」。頑として助言を聞き入れない杜氏(とうじ)もいた。「技術指導には限界があるのか」。鈴木はほとほと困り果てた。
 葛藤を抱えていた9年7月。鑑評会での金賞の取り方について、新潟県の酒造関係者の講演を聴く機会が舞い込んだ。各蔵元で高品質の酒を再現するには、酵母の使い方などに定法があることを知った。「『設計図』があってもいいんだ」。目の覚める思いだった。
 早速、県内の酒蔵の協力を得ながらマニュアル作りに取り掛かった。<しぼりから火入れまでの最適な期間は><酵母が順調に酒を醸しているかを確かめる計算式は>...。吟醸酒の成功率を飛躍的に高める方法を編み出した。目指すべき「芳醇、うま口」の方向性が決まった。
 だが、酒造関係者からは「みんな同じ味になるのでは」と心配する声が上がった。鈴木は酵母の種類は特定せず、「香りが高い系統の酵母」とのみ記すなど各蔵元の工夫が生かせるよう幅をもたせることで、「福島流」の強みとした。
 研究開始から5年がたった14年12月、マニュアルは完成した。この年の5月に発表された全国新酒鑑評会の県内での金賞受賞数は5銘柄にまで落ち込んでいた。「蔵元の道しるべになってくれよ」。祈るような気持ちで配布を始めた。

 「分かりやすい」「ここに気を付ければいいのか」。評判は瞬く間に広まった。各蔵元に浸透し切った18年5月、県内の金賞受賞数は23銘柄を数えた。都道府県別で初めて日本一に輝いた。「これまでの挑戦が報われた思いがした」
 鈴木が研究に没頭するのと時を同じくして、酒造業界でも「金取り」に向けた型破りの試みが動き出していた。(文中敬称略)

カテゴリー:福島をつくる-未来への挑戦

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