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福島をつくる(64) 第5部 酒づくり 技術委員会 若手登用理想を追求

ミラノ万博で福島の地酒の技術力を説明する細井(左)

 会津若松市の県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターで9月10日に開かれた県秋季鑑評会。蔵元が魂を込めてつくった酒を利き酒し、採点していく。「香り良し」「素晴らしい味の膨らみだ」。審査員は舌に全神経を集中させ、心の中でつぶやいた。
 審査員の中心は県酒造組合の技術委員だ。近年は利き酒の実力を買われた20代から40代の精鋭がそろう。わずかな味の違いを見分け、審査や指導・助言に当たる。委員長を務める南会津町の国権酒造社長・細井信浩(43)は「若手を育て、積極的に登用してくれるのが福島の強み」と胸を張った。

 会津若松市の県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターなどによると、20年ほど前、県の鑑評会で入賞しても全国で評価されず、逆に県で評価されなかった銘柄が全国で入賞する「逆転現象」が起きた。当時、飲み口が良く、香りが華やかな吟醸酒が全国的に流行し始めていた。
 細井は広島県の酒類総合研究所で利き酒などの専門的な修業を積み、平成10年に南会津町に戻ってきた。鍛えられた舌で飲み比べをする中、酵母などの技術革新で、全国の清酒の品質が格段に上がっていた。「福島が勝つには技術革新とともに、評価の水準を高める必要がある。そのためには新しい風が必要だ」と痛感した。
 細井の思いにこたえるように、県酒造組合は技術委員に若手を登用し始めた。細井は12年に委員になった。当時28歳で、最年少だった。トレンドを分析し、評価に反映させるための摸索が始まった。
 20年、細井は技術委員長に就いた。そのころ、香りや味のバランスなどの評価に重きを置いていた。だが、新しい評価を不服とする声もあった。「審査員の資質を問いたい」。ある蔵元から指摘されたことがあった。「目指す方向が間違っているのか」。細井は戸惑った。
 そんな時、研究所の恩師の言葉を思い出した。「日本酒づくりは夢を醸すこと」。ゴールが見えない酒づくりの仕事では、夢を膨らませ続けることが大切だという教えだ。「自分の夢は理想の酒をつくること。そのためにしてきた努力を信じよう」と腹をくくった。
 23年、細井が中心となり、わずかな酸味や甘み、香りを識別する官能評価士の資格取得に乗り出した。難関中の難関だが、9人の委員全員で専門的な知識を学ぶことで、利き酒力を高めようと考えた。これまでに委員2人が合格した。
 鑑評会は全国、県ともに点数制で、吟醸香などの香り、甘みや酸味などの味を基準に審査する。県の鑑評会では、10人以上の審査員が1点から5点までの点数を付け、合計点が小さいほど評価が高く、上位銘柄となる。「各蔵が厳しい基準の県内で評価されようと努力することで、全国でも金賞が取れる」。細井が描く理想だ。
 10月12日。細井はイタリアのミラノ万博で催された「ふくしまウィーク」に臨んだ。技術委員長として、金賞受賞数「日本一」となった福島の酒づくりの技術力の高さを紹介するためだった。会場では、現地の関係者が行列をつくり、各蔵の清酒を笑顔で味わった。その光景を目の当たりにして確信した。「福島の酒を世界中に味わってもらえる日が必ず来る」
 長年の努力が実を結んだ県内の酒づくり。各蔵元では新たな夢が膨らみ始めている。(文中敬称略)

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