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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第6部 ADR・訴訟 浪江(37) 町の決断揺るがず 住民の訴え届くのか

19日の住民説明会の準備を進める鈴木さん(右)。生の声を聞く貴重な機会となる

 浪江町産業・賠償対策課賠償支援係の職員3人は17日、東京都内で弁護士と会っていた。「あさって、よろしくお願いします」。東京電力福島第一原発事故を受け、町民約1万5000人が精神的慰謝料の増額などを原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)。その現状を伝える住民説明会が19日に迫る。町支援弁護団の担当者と当日の流れを最終確認した。
 県内外の7カ所に会場を設け、来年1月まで巡回する。昨年5月以来の開催となる。前回はセンターが示した月額5万円増額の和解案を報告した。その後、町民側は受諾する考えを表明したが、東電はセンターの度重なる回答要求に対し、5回にわたって受け入れ拒否を伝えている。
 町民にあるのは不満か、諦めか。賠償支援係長の鈴木清水さん(43)は「お叱りもあるかもしれないが、正直な声を聞きたい」と語る。ただ、町の姿勢が揺らぐことはないという。「私たちは被害に遭った町民を守るために代理人となった。町民の代弁者として、苦しみを訴え続ける」


 原発事故発生時、浪江町には2万1436人が暮らしていた。「海と緑にふれあう町」をキャッチフレーズにした自然豊かな町は政府の指示で避難を強いられた。町民は県内外に分散した。避難生活の長期化に伴い、震災(原発事故)関連死は17日現在、377人で、直接死150人の約2.5倍に上る。
 東電は浪江町を含む避難区域の住民に、精神的損害に対する慰謝料として1人当たり月10万円を支払っている。「これは交通事故の自賠責で払われる最低限の金額以下。避難生活の苦痛など原発事故の深刻さを考えれば低過ぎる」。馬場有町長(67)は慰謝料を月35万円とするようADRの申し立てを決断した。町が町民の代理人となり、平成25年4月に全世帯へ通知した。1カ月後の第1回締め切りまでに約1万1000人から参加申込書・委任状が届いた。2カ月後には約1万4000人に膨れ上がった。


 申し立てに異を唱える表立った動きはなく、最終的に町民の7割、約1万5000人が名前を連ねる前例のない規模となった。町は「避難生活の過酷さを社会に訴えたいとの思いが町民の背中を押した」(産業・賠償対策課)とみる。
 一方で町外から「生活費をせびっているんだろう」との声も聞こえてきた。それでも町民に引く考えはなかった。「過去に引きずられず、未来へ進みたい。そのためには実態に即した適正な賠償を受け、心のわだかまりを精算しなくてはならない。これが町民の願いだ」。元町職員でさいたま市に避難する渡部慎也さん(40)は強調する。


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 原発事故から4年9カ月。浪江町は全町民が古里に帰れない。避難の長期化に比例して増大する苦しみ。すがる思いで申し立てたADRは行き詰まりを見せる。そこには賠償制度の壁が立ちはだかる。


※原子力損害賠償紛争解決センターとADR センターは政府が平成23年8月に開設した公的な紛争解決機関。東京電力の損害賠償提示額に納得できない被災者からの申し立てを受け、調査官(弁護士)が損害を調べる。仲介委員(同)が面談や電話などで申立者、東電の双方から意見を聞き、和解案を提示する。双方が受け入れれば和解が成立する。この流れを裁判外紛争解決手続き(ADR)と呼ぶ。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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