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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第6部 ADR・訴訟 浪江(38) 苦痛の増加認める センター 避難の現状反映

町から届く広報誌に見入る渡部さん。避難先から古里の行く末を案じる

 平成26年1月、浪江町民が精神的慰謝料の増額を求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)の現地調査が行われた。
 元町職員の渡部慎也さん(40)=さいたま市に避難=は居住制限区域の同町立野上地区にある自宅で調査に立ち会った。和解案の内容を検討する原子力損害賠償紛争解決センターの仲介委員(弁護士)らに、穏やかな暮らしが一瞬で失われた現実を訴えた。
 渡部さんは東京電力福島第一原発事故発生後、避難者の所在確認などで多忙を極めた。妻と娘3人は親類を頼り、さいたま市に避難した。離れ離れの生活は次第に心の距離も遠ざけた。家族と一緒にいるべきか。町民に寄り添うべきか。葛藤した。24年12月、入庁時は考えもしなかった町職員の退職を決断した。
 現地調査の翌月にはADRの口頭審理に参加した。安定した仕事を離れた不安や悔しさが込み上げた。「この苦痛の代償はたった月10万円程度なのか」と声を荒らげた。

 26年3月、センターは慰謝料を月5万円増の15万円とする和解案を示した。要求した25万円増の35万円には及ばないが「避難生活の精神的苦痛は時間がたつごとに増加し、顕在化して深刻になっている」と増額を認めた。原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が中間指針で示した月10万円の慰謝料を事実上、不十分とした。
 町支援弁護団がまとめた町被害実態報告書や仮設住宅などでの現地調査を踏まえての結果だった。
 渡部さんの脳裏には口頭審理で真摯(しんし)に耳を傾けてくれた仲介委員の顔が浮かんだ。「訴えた苦しみを理解してくれた」。金額には満足できないが、胸のつかえが取れたように思えた。

 浪江町民のADRでは約15人の弁護士が町支援弁護団として手続きを支えている。事務局長の浜野泰嘉弁護士(42)=東京=は前例のない大規模な賠償請求の準備を手探りで進めてきた。
 要求額は交通事故の賠償額、原発事故をめぐり各地で起きているADR・訴訟を参考にした。浜野弁護士は「町民それぞれの避難生活の実態や思いも踏まえて金額を決めた。それが適正かどうかを判断するのがセンターの仕事だ」と指摘。和解案は要求額を大きく下回ったが「多い少ないに関係なく、公的な機関が所定の手続きを踏まえて算出した。否定できるものではない」と受け止める。
 間もなく、町は弁護団と協議の上、和解案受諾へかじを切った。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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