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第6部 ADR・訴訟 浪江(40) 「個別事情」で相違 和解の道のり険しく

東電が早期に和解案を受諾するよう願う佐藤さん。仮設住宅で亡くなった申立人も多い

 浪江町民が東京電力福島第一原発事故に伴う精神的慰謝料の増額を求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)で、平成26年3月に原子力損害賠償紛争解決センターが和解案を示してから1年9カ月。申立人約1万5000人のうち、今年7月現在で365人が死亡した。高齢の申立人も多く、長引く避難生活で体調を崩す人が増えている。
 二本松市の安達運動場仮設住宅では約30人が解決を見ないまま亡くなった。町行政区長会長の佐藤秀三さん(70)は「和解を見届けられなかった方々は無念だったに違いない」とため息をつく。
 かつて仮設住宅の自治会長を務めていた。今でも深夜に近隣の高齢者から「具合が悪い」としばしば電話が入る。その都度、救急車を呼んで病院に連れて行く。「長期化する避難生活で町民の心と体はむしばまれた。当事者にすれば相当な苦痛だったはず。何とか報われてほしかった」

 政府は原発事故発生から5カ月後の23年8月、原子力損害賠償紛争解決センターを開設した。ADRの迅速な解決が目的だった。しかし、浪江町民のADRは25年5月の申し立てから2年7カ月が経過しても結論が出ない。
 佐藤さんは今年1月、自宅の土地・家屋などの賠償をADRで解決しようと試みた。個人の場合、どれほどの期間で和解するのかを知りたかった。資料準備に手間はかかったが、その後の東電の対応は速やかだった。申し立てから3カ月で広瀬直己社長名義の和解案契約書が届いた。「この素早さがセンターに期待されている機能だ。浪江が和解に至らないのは集団で申し立てたからなのか」と疑念を抱く。

 東電は「地域の特性があれば、必ずしも集団(での申し立て)が駄目というわけではない」としている。現に、東日本大震災による津波犠牲者の捜索などが原発事故の影響で遅れたとして、南相馬市小高区と浪江町の遺族がそれぞれ集団で慰謝料の支払いを求めたADRは、ともに和解が成立した。
 浪江町民と東電の和解案をめぐる争点は「申立人の数が多い少ないではなく、内容に個別事情が反映されているかどうかに絞られるのではないか」と専門家らは口をそろえる。
 福島大の教員がつくる原発賠償ADR研究会の共同代表を務める富田哲教授(61)=行政政策学類=は「センターは個別事情を踏まえたと説明するが、東電は考慮されていないと主張する。東電が考え方を変えない限り、結論は出ないだろう」と見る。和解の道には指針の存在も障壁となっている。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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