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第7部 ADR・訴訟 地域事情(46) 併用案で解決急ぐ 川俣山木屋 裁判の長期化懸念

ADRの申し立てに向けて資料に見入る大内さん

 東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示解除準備区域と居住制限区域が設定されている川俣町山木屋地区は精神的損害を訴訟、建物など財物価値の低下に対する賠償を裁判外紛争解決手続き(ADR)で解決しようとしている。訴訟とADRの併用によって早期の支払いを実現し、生活再建を推し進めようと独自の策を練った。だが、山木屋地区も住民の望み通りには進んでいない。

 精神的損害賠償の訴訟は住民計約300人が昨年2月までに順次、地裁いわき支部に起こした。1人2000万円と避難生活が終わるまで1人月50万円の支払いを求める内容だ。審理がある程度進んだ段階で財物賠償を追加請求する予定だった。しかし、精神的損害賠償請求が昨年6月、先行して訴えていた双葉郡の住民訴訟と併合され、山木屋地区分の審理は後回しになった。
 住民は財物賠償を追加請求すれば、裁判がさらに長期化すると判断し、財物賠償をADRに切り替えた。まず16人が昨年11月、原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てた。
 弁護団副幹事の高橋右京弁護士(43)=東京=は「生活再建を優先させる手段で、苦肉の策に近い」と明かす。山木屋地区には解決を急がなくてはならない事情がある。

 山木屋地区の避難指示は早ければ今春にも解除される。地区内では帰還の準備が進み、生活や事業を立て直す資金を必要としている住民が多い。
 「賠償の入金が大幅に遅れると、経営が立ち行かなくなる」。原発事故が起きるまで地区内で鋳型製造工場を営んでいた大内徳明さん(80)は訴える。避難先の町中心部に仮工場を借りて生産を続けているが、仮工場は避難指示解除までの期限付きで賃借した。解除を機に新工場を建設する予定だが、資金としてあてにしている山木屋の工場に対する財物賠償が支払われるめどは立っていない。
 大内さんは書類などの準備が整い次第、他の住民と一緒に3月にもADRを申し立てる。弁護団は遅くとも1年以内に東電との和解を成立させる目標を掲げている。しかし、先行きは不透明だ。

 原子力損害賠償紛争解決センターが扱ったADRは1月29日現在1万8887件。このうち71%に当たる1万3497件が和解に至るなどの成果を挙げている。ただ、精神的損害賠償を集団で申し立てた場合などは仲介が難航する傾向にある。
 福島大の教員でつくる原発賠償ADR研究会代表の富田哲教授(61)=行政政策学類=は「ADRは和解案に強制力がないなど限界がある。住民が裁判に救いを求める流れは一層強まるだろう」と分析する。高橋弁護士はADRと裁判を比較し、「ADRで和解したとしても、裁判で勝訴した場合に比べれば賠償額が下回る可能性もある」と指摘する。原発事故から5年の区切りを迎え、ADRの在り方を問う声も出ている。=第7部「ADR・訴訟 地域事情」は終わります。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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