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【震災から5年】「福島第一原発 汚染水対策」 たまり続ける処理水

溶接型への切り替えが進むフランジ型のタンク群。奥は3号機=2月5日

 ■セシウムなど60種は除去 海洋放出が課題 ALPS
 
 構内には、汚染水を保管するグレーや水色の大型タンクが林立している。保管されている汚染水の総量は約78万トンで、このうち約61万トン(11日現在)は多核種除去設備(ALPS)で処理済みの水だ。
 敷地内には既設、増設、高性能の3台のALPSがある。東電はALPSでの汚染水処理で、万が一、タンクから水が流出しても環境に与える影響を減らせるとしている。
 ただ、セシウムやストロンチウムなど約60種類の放射性物質は除去されるが、トリチウムは高い濃度で残っている。トリチウムを含む水の処理・管理方法が明確になっておらず、処理水はたまり続けている。
 トリチウムを放出する際の法定基準は1リットル当たり6万ベクレルで、セシウム134の60ベクレル、セシウム137の90ベクレルに比べて高く設定されている。
 トリチウムの放出は原発事故以前から行われており、電力会社は原発ごとに基準値を定め管理していた。原子力規制委員会の平成16年度から25年度までの統計によると、事故前の福島第一原発では年間22兆ベクレルの基準値に対し、トリチウム放出量は1兆~2兆6000億ベクレルだった。
 他の原発では原子炉の数や型式によって差があるが、年間数億~100兆ベクレルを放出した。九州電力玄海原発(佐賀県)では22年度に100兆ベクレルを海に放出している。16年度の関西電力大飯原発(福井県)で98兆ベクレル、23年度の北海道電力泊原発(北海道)で38兆ベクレルを放出している。
 トリチウムの放射線はエネルギーが弱く、1ベクレル当たりの線量はセシウムの約1000分の1に相当する。
 原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)は「トリチウム水を海洋放出すべきだ」としている。国際原子力機関(IAEA)は原発事故を総括した最終報告書の中で、浄化設備で除去できないトリチウムを含む水の海洋放出検討の必要性を指摘している。

 ■タンク溶接型に 28年度内の完了目指す

 東電は汚染水を保管する大型タンクのうち、接合部をボルトで締めたフランジ型を全て溶接型に切り替える工事を進めている。平成28年度内の完了を目指している。
 1月21日現在、福島第一原発構内には1115基のタンクがある。このうち3割弱の約300基がフランジ型で解体工事などが進んでいる。
 フランジ型は板状の鋼材をボルトでつなぎ合わせる構造。比較的早く建設できるとして事故後の初期に導入した。しかし、つなぎ目などから汚染水漏えいが相次ぎ、25年8月には一基のタンクから約300トンの高濃度汚染水漏れが発覚した。

 ■「戦い」物語る巨大な壁 汚染水対策ルポ

  大型休憩所にある7階から構内を見渡すと、眼下に無数のタンク群が広がる。構内には汚染水を保管する大型タンクが約千基あり、全て事故後に造られたものだ。かつて構内を彩っていた植え込みや樹木はほとんど姿を消し、増え続ける汚染水との戦いを物語る。
 建屋東側の港湾に移動すると、昨年10月に完成した海側遮水壁が目に飛び込む。護岸に594本の円筒状の鋼材が約780メートルにわたって規則正しく並んでいる。汚染された地下水の流出を止める巨大な壁となっている。
 せき止められた地下水が港湾の海水面より高い位置にあり、その効果が確認できた。しかし、行き場を失った地下水のほとんどは建屋内に運ばれ、汚染水となって地上タンクに送られている。
 東電が汚染水対策の切り札とする凍土遮水壁が1~4号機を囲むように埋設されている。凍結管計1568本を固い地盤まで打ち込んだ。建屋の周辺に銀色の配管が束になって伸びているのが確認できた。
 この配管で「ブライン」と呼ばれるマイナス30度の冷媒を循環させて地中に「氷の壁」をつくり、建屋への地下水流入を防ぐ。「建屋を大きなコップの中に入れるイメージです」と東電の担当者が説明した。
 汚染水との戦いはこれからも続くが、一つ一つの対策が着実に効果を見せ始めていると感じた。(本社報道部・菊池匡起)

 ■福島大環境放射能研究所教授 青山道夫氏に聞く

 東京電力福島第一原発事故発生後、原発構内では凍土遮水壁や海側遮水壁の設置など汚染水対策が進む。海洋に広がった放射性物資の動態などを調べている福島大環境放射能研究所の青山道夫教授(62)に東電の汚染水対策やモニタリングの現状、海洋への影響について聞いた。

 -東電が進める汚染水対策の評価は。

 「海側遮水壁については一定の効果が出ていると評価する。一方で、汚染水の海洋への流出を完全に止めているとは言えないのが現状だ。流出経路を完全に特定しなければ、実効性のある対策はとれない」

 -本県沿岸部では試験操業が続く。

 「海洋モニタリングの結果は、福島第一原発近傍を除けば事故発生前の値に近づきつつある。魚介類についても食品衛生法の基準値(一キロ当たり100ベクレル)を超えるのは原発周辺のメバルなど放射性物質が蓄積されやすいとされる一定の魚種のみだ。海洋と魚介類のモニタリング結果から市場に流通している魚介類は安全と言える」

 -東電のモニタリング態勢をどう見るか。

 「第一原発周辺で実施する海洋中の人工放射性核種のモニタリングは海水を採水し、その都度分析する方法がメーンだ。連続データを取得しているのは港湾内の突堤部分の一箇所のみ。これでは不十分で少なくとも3地点で連続データを取得すべきだ。一箇所は港湾南側の外洋、もう一箇所は5、6号機の放水口周辺。引き続き、東電には必要性を訴えていく」

 -現在のタンクによる汚染水の保管は漏えいのリスクを伴う。

 「一般的に液体の管理は固体管理よりはるかに難しいとされる。タンク群は比較的高台にあり津波によるリスクは低いが、液体で管理している以上、漏えいのリスクはある。放射性物質の固体化研究を継続して進める必要がある」

 -海洋中のセシウムやストロンチウムなど人工放射性核種の高精度分析の必要性を説いている。

 「汚染水の流出経路を特定できるほか、海洋で何が起きているかを知る手掛かりとなる。実測値とスーパーコンピューターを用いた海洋モデルによる再現計算と比較検討することで現状の解析はもちろん、将来予測にもつながる」

 あおやま・みちお 大阪市出身、金沢大大学院自然科学研究科修了。気象研究所主任研究官を経て、平成26年2月から現職。専門は地球化学。62歳。

カテゴリー:震災から5年

昨年10月に完成した海側遮水壁は地下水が港湾内に流れ出るのをせき止めている。港湾内の海水面に比べ、壁の内側(手前)の方が水位が高く、遮水効果が確認できる=2月5日

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