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【震災から5年】「農業」 風評払拭へ安全発信

おいしい果物づくりを目指し、モモの木の剪定に励む安斎さん

 ■トップセールス展開 県、JAイタリアや都内で
 
 県産農産物の風評払拭(ふっしょく)に向け、県やJA福島五連は国内外で積極的にトップセールスを繰り広げている。
 イタリア・ミラノで昨年10月に開催されたミラノ万博では「ふくしまウイーク」としてPRの機会を設けた。震災後、県内を訪れた経験を持つミラノ大の学生とともに、復興に向けて歩み続ける県の姿や豊かな食文化、食の安全確保の取り組みを世界に発信した。内堀雅雄知事や大橋信夫JA福島五連会長自らが会場を訪れ、来場者に県産桃のドライフルーツなどを配った。
 販路開拓に向けては1月20日、東京・池袋サンシャインシティで大規模な商談会「美味いものどころ ふくしまの恵み商談会」を初めて開催した。百を超える事業者が参加し、販路拡大のチャンスを探った。
 
 ■県産品輸入緩和 EU、放射性物質の基準以下
 
 原発事故後、EUは酒類を除く県産品を輸入する場合、放射性物質に関する検査証明書の提出を求めてきたが、1月9日から野菜や柿を除く果実など複数の品目を対象から外した。
 平成25、26両年に基準値を超える放射性物質が検出されなかったためで、畜産品、そば、茶なども規制から除外された。しかし、コメ、大豆、キノコ、山菜類、水産物は引き続き検査証明書の提出が義務付けられている。
 EU以外にも日本産の食品に対する輸入規制を完全に撤廃したり、緩和したりする国・地域が徐々に増えている。一方、韓国の水産物輸入禁止措置は世界貿易機関(WTO)紛争処理小委員会(パネル)での審理に委ねられている。台湾でも厳しい輸入規制が続く。
 
 ■県農産物輸出26年度は2倍 ASEANに販路
 
 26年度の県産農産物の輸出量は9・46トンで、前年度の約2倍となった。経済成長が著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)などに、販路が拡大しているのが主な要因とみられる。
 県は昨年8月、タイやマレーシアで県産モモの販売促進活動を繰り広げるなど、定期的に東南アジアでPR活動を実施している。
 
 ■果樹農家ルポ 福島 安斎忠作さん 首都圏に安全、おいしさ発信 売り上げ、震災前程度まで回復
 
 「復興はもう目の前だ」。震災と原発事故から間もなく丸5年-。福島市飯坂町で安斎果樹園を営む安斎忠作さん(67)は自分自身を心の中で励ましながら、モモの木の剪定(せんてい)作業に励んでいる。おいしい果物を全国に届けたいという思いが支える。
 寒風の中、ほぼ毎日、5ヘクタールの果樹畑に足を運んでいる。モモをはじめ、サクランボ、リンゴなどの木の状態をじっくりと観察し、枝を切り落としていく。震災が起きた平成23年の売り上げは前年の約6割にまで落ち込んだ。風評により贈答用果物の注文が激減した。「このままでは県内の農業が衰退してしまう」と危機感を覚えた。
 農産物の安全とおいしさを伝えるため、できることは何でもやった。県内外からさまざまな団体の視察を受け入れた。県内と首都圏の女子大学生が農業を体験する「女子農力向上委員会」の活動にも協力し、果樹園をモモ狩りに開放した。東京都内のバーテンダーとも交流し現在、銀座のバーで県北産のナシやリンゴ、イチゴなどを使ったカクテルを提供してもらっている。
 こうした取り組みが実を結び、昨年の売り上げは震災前年と同程度まで回復した。最近では、消費者の安全性への理解が進んでいると肌で感じるという。ただ、「風評を完全に払拭(ふっしょく)するにはまだまだ時間がかかる」と考えている。震災後に出会った全ての人に感謝し、味の良い果物を生産し続けることが農業の復活につながると信じている。(飯坂支局長・小松 淳)
 
 ■日本橋「ふくしま館ミデッテ」 農産物都民に人気
 
 東京・日本橋にある県の首都圏情報発信拠点「日本橋ふくしま館 MIDETTE(ミデッテ)」は県産農産物や加工食品を販売し、都民の人気を集めている。
 館内には現在、あんぽ柿やイチゴ、トマト、ナメコ、県産米、ジュース、ジャム、漬物、日本酒などが並ぶ。首都圏の消費者らが次々と訪れ、「福島の味」を品定めしている。
 同館は平成26年4月にオープンし、初年度は約3億3千万円の売り上げがあった。今年度は2、3割ほどの伸びが期待できるという。来館者数は今月初旬、70万人に達した。一方、館内では町村や団体などが催事を開き、旬の農産物や特産品をPRしている。
 都内で開かれる催しや企業での販売会にも積極的に出店し、県産農産物の安全をアピールしている。
 加藤泰広館長は「開館から2年近く経過し、利用者が定着してきた。今後は体験イベントなどを繰り広げ、県産品の魅力をさらに発信したい」と意欲を見せている。

 
 ■ふくしま逢瀬ワイナリー 3月初出荷 郡山
 
 郡山市と三菱商事復興支援財団による果樹農家六次化産業プロジェクトの拠点醸造施設「ふくしま逢瀬ワイナリー」では、3月上旬の初出荷を目指して醸造作業が順調に進んでいる。
 ふくしま逢瀬ワイナリーで醸造に使われているのは、全て県内産の果実。市内産のナシやリンゴのほか、県北地方で生産されたモモからリキュールが造られる。会津若松市北会津町のブドウはワインの原料となる。
 果汁は醸造用タンク内で二週間程度かけて発酵させる。熟成期間を経て完成し、施設内で瓶詰めされ出荷を迎える。逢瀬ワイナリーは県内の農業復興を支援するため、財団が約10億円かけて整備し、昨年10月に完成した。当面は年間約1万2千リットル、将来的には同約2万5千~3万リットル生産する予定だ。加工や流通・販売のノウハウを身に付けた地元住民が運営を担うことを目指している。ワインやリキュールの試飲コーナーは平成29年3月までに整備される計画で、新たな観光資源として地元の期待も大きい。
 市内では、ワイン用ブドウの作付けが昨年春から始まった。財団の中川剛之事業推進チームリーダーは「逢瀬ワイナリーで造ったワインなどを通じ、福島の果物のおいしさを国内はもちろん、世界に発信したい」と話している。
 
 ■給食の県産品活用27.3% 27年度 前年度を5.4ポイント上回る
 
 平成27年度の学校給食の県産品活用割合は27・3%で、前年度を5・4ポイント上回り、3割近くまで回復した。
 原発事故が3月に発生した22年度は36・1%だった。翌年度は原発事故の影響などで調査を見送ったが、24年度は18・3%と2割を割り込んだ。25年度から年々、割合が増加している。
 県教委は学校給食の食材の放射性物質検査結果をホームページで公表している。一方、各市町村教委は保護者を対象とした試食会を開くなどして、県産品の安全性を周知している。県教委はこうした取り組みの成果で、県内で取れたコメや野菜を食材として使うことに、保護者の理解が得られるようになってきたとみている。
 県総合計画では、活用割合を32年度までに40%以上とする目標を掲げている。
 調査は県教委が学校給食での地場産品の活用状況を把握するため、17年度から実施している。27年度は学校給食の調理施設がある51市町村を対象に調査した。6月と11月にそれぞれ5日間、給食一食を作るのに使用する食材で県産品の品目数の割合を調べた。
 
 ■JA福島五連会長 大橋信夫氏に聞く 明るい兆し出ている
 
 震災と原発事故から間もなく丸5年を迎える中、県内農家は根強い風評との闘いを続けている。JA福島五連の大橋信夫会長(68)に農業再生に向けた決意を聞いた。
 
 -県内農業の復興に向けた歩みと今後の課題を伺いたい。
 
 「水稲の作付けを再開する地域が増えるなど明るい兆しが出ている。一方、農業就業人口と販売農家が減少するなど依然厳しい状況が続いている。このままでは農業生産力が弱まり、農家の生活に大きな影響が出ると懸念される。営農再開を支援し、県産農畜産物の風評払拭に努めるなど、農業振興と地域活性化に取り組むのが最重要課題だと考えている」
 
 -風評は依然として根強い。
 
 「消費者が安心して買い求められるよう、生産段階での安全確保対策と流通段階での検査態勢の強化に引き続き取り組む。関係機関と連携を図りながら、生産者と消費者の交流会を含むイベントなどで安全性をアピールする。県と協力してトップセールスを行い、流通業界への働き掛けを強めていく」
 
 -3月1日には新生JAが誕生する。
 
 「『ふくしま未来』『福島さくら』『夢みなみ』『会津よつば』の4JAが新たに発足する。震災と原発事故からの復旧・復興を進め、農業の生産基盤回復や組合員と住民が安心して暮らせる地域社会の再生を目指す。合併によって組織は大規模化、広域化するが、組合員と円滑に意思疎通できるようにする。現行のJA単位に地区本部や地区支援センターを設置し、地域性に配慮した運営を展開する」
 
 -環太平洋連携協定(TPP)への対応は。
 
 「JA福島中央会の独自試算では、県内農林水産業の産出額が震災発生前年の平成22年と比べ421億円減るという結果が出た。原発事故で被災した県内農業の復興の足かせとなることは必至だ。生産現場には不安と怒りの声が広がっている。国に経営支援策を要請していく」
 
 おおはし・のぶお 伊達市梁川町出身。福島農蚕(現福島明成)高卒。平成15年7月からJA伊達みらい組合長を務め、22年6月にJA福島五連副会長に就いた。26年6月から会長。68歳。

カテゴリー:震災から5年

県産農産物などを求める来館者でにぎわうミデッテ

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