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【震災から5年】「企業立地・事業再開」 事業再建後押し急務 避難区域設定12市町村 1409事業者 古里で希望

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興の加速化に、産業再生が欠かせない。医療福祉関連産業や再生可能エネルギー産業など幅広い分野で工場の新増設が進む。一方、避難区域が設定された12市町村の事業者の経営再建を支援する福島相双復興官民合同チームは発足から6カ月が経過する。補助金の使い勝手が改善されたり、支援策が拡充された。ただ、事業者からはきめ細やかな後押しを求める声が上がる。

 福島相双復興官民合同チームによると、避難区域が設定された12市町村の約8千事業者のうち、これまでに事業を再開するかどうかの意向を確認できたのは3315事業者。43%に当たる1409事業者が古里での事業再開・継続を希望している一方、21%に当たる703事業者は避難先などでの事業再開・継続を希望している。
 17%(568事業者)は将来の事業再開は難しいと考え、5%(166事業者)は既に廃業を決めている。
 12市町村別と業種別の事業再開意向は【表1・2】の通り。地元での事業再開・継続の希望が最も多いのは広野町の84%で、南相馬市と田村市が70%で続いた。業種別では製造業の50%、医療・福祉の47%が地元での事業再開・継続を希望している。不動産業・物品賃貸業の82%が休業を強いられている。
 
 ■【岡田社長「若手技術者を育成」 相馬で再開「フジモールド工業」
 
 「若手を育成し、技術継承に力を入れたい」。精密プラスチック用の金型設計・製作などを手掛ける相馬市のフジモールド工業の岡田英征社長(37)は決意を示す。
 昭和49年、富岡町で創業した。以来、地元に密着しつつ、ベトナム、インドなど海外にも工場を設け事業を展開した。富岡町の本社工場は東京電力福島第一原発事故で避難区域となり操業できなくなった。県や相馬市の支援を受けて現在地に生産拠点を確保。平成24年4月、本社工場とグループ会社の協伸工業(新地町)、津波で流失したサンテック(宮城県山元町)を統合し新工場で再スタートを切った。
 地元から20人ほどを新規雇用した。それでも、全体の従業員数は震災前を下回っている。富岡町の工場には今も設備の一部を残したままで、生産量も震災前の水準には及んでいないのが実情だ。
 相馬で再スタートを切ってから4月で5年目となる。再開後も積極的に新卒者を採用し、ベテランと若手が技術を高め合っている。会社が重視するのは若手技術者の育成。「これからも人材育成と雇用創出、技術開発に重点を置きたい」と話している。
 
 ■単独再開に新たな補助 経産省 中小事業者らの帰還支援
 
 既存のグループ補助金「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」は、複数の企業で共同事業を展開することが交付要件となっており、小規模事業者らから使い勝手の悪さが指摘されていた。
 このため、経済産業省は原発事故で避難区域が設定された県内12市町村の中小企業や小規模事業者に対し、設備投資費などを新たに補助する。商店や工場などが単独で事業を再開する場合にも補助金を受けられるのが最大の利点で、事業再開と住民帰還を促す。
 平成27年度補正予算案に盛り込まれた原子力災害に伴う被災事業者の自立支援事業228億円のうち、3年分の助成費として74億円を計上した。予算は千件分ほどを見込み、基金に積み立てて運用する。
 帰還して再開する場合は、原則として初期費用の上限1千万円の4分の3(最大750万円)を助成する。ただ、帰還先の市町村の復興計画に沿った商業ゾーンや工業ゾーンに移転する場合などは3千万円まで補助対象となり、最大2250万円の助成を受けることができる。
 一方、避難先など12市町村以外で事業を再開する場合は、初期費用の上限1千万円の3分の1を補助する。このため、最大で300万円の助成となる。
 既存のグループ補助金の補助割合は中小企業が4分の3以内、大企業が2分の1以内。平成26年度末までに県内の317グループ(3478社)に約1044億円の交付が決定し、約85%の事業が完了している。
 
 ■福島相双復興官民チーム 発足から半年 3300事業者を訪問
 
 国・県・民間で組織する福島相双復興官民合同チームは、平成27年8月の発足から半年が経過した。原発事故に伴い避難区域が設定された12市町村の約8千事業者の再建を支援するため、これまでに約3300事業者を訪問した。一方で、連絡が取れなかったり、訪問を断られたりしたのは約1800事業者に上っている。
 初回訪問時に、原発事故前の経営状況や事業再開に向けた資金繰りなど込み入った話をする事業者はほとんどいない。時には玄関先で追い返され、塩をまかれることもあるという。
 官民合同チームの訪問グループリーダーで内閣府原子力災害対策本部の笠原誠さん(56)も自ら現場に出る。「おしかりを受けることもあるが、訪問して良かったと心から思う時もある」。高齢のために廃業を決めていた事業主に、再訪時に新たな支援策を示したところ翻意したケースもある。
 ただ、現状の支援策が十分だとは思っていない。「まだまだ行き届いていない部分がある。県や市町村と相談しながら改善していきたい」と話す。
 
 ■相談員訪問ルポ きめ細やかに助言 事情さまざま 柔軟さが課題
 
 福島相双復興官民合同チームは二人一組で行動する。中小企業基盤整備機構の相談員男性(66)と福島相双復興準備機構の相談員男性(55)のペアに同行した。
  
 訪問先は福島市栄町の駅前通りに面した仕立て・リメークの「工房 ふく福」。浪江町から同市に避難している三浦幸子さん(59)が切り盛りする。
 「再オープンされて2カ月ですが(客入りは)いかがですか」
 「新規も含めて月当たりで20人くらい増えました」
 以前はJR福島駅西口のテナントビルで営業していたが、27年12月に人通りの多い東口の現地に移った。
 初回訪問時は移転準備で慌ただしく、じっくりと話をできなかったが、避難先の福島市での事業継続という意向は確認していた。再訪の目的は新たな支援策の提示だ。相談員は補助金の活用例をまとめた資料を示しながら「人材マッチングによる人材確保支援。これも三浦さんに当てはまるのではないかと思います」と勧めた。使い勝手の悪さが指摘されてきたグループ補助金についても「グループでなく個人でも使えるようになります」と付け加えた。
 官民合同チームは、事業者から寄せられた要望や苦情を踏まえ支援策を見直し、国の27年度補正予算案で228億円、28年度予算案で13億円を確保した。財源が担保され、支援策を紹介する相談員の言葉にも力がこもった。
 だが、三浦さんの反応は素っ気なかった。「手厚い補助金ですが、帰還して再開する大きな企業向けばかりですね。小さな店はなかなか手が出せないです」と敷居の高さを指摘した。避難先で事業を再開するためのメニューの少なさに加え、資料の言葉遣いの難しさも感じたという。
 三浦さんは同郷の知人に仕立てやリメークの仕事を外注に出そうと考えているが、知人宅は震災で工業用ミシン類が壊れたままだ。この日、「彼女にミシンなどの必要最低限の投資をしたいのですが」と初めて打ち明けた。外注を増やせば、少しずつ仕事を再開する人が出てくると考えているためだ。
 相談員は「投資に該当すれば支援が可能かもしれません。持ち帰って検討させてください」と前向きに応じた。
 事業者が抱える悩みや事情はさまざまだ。支援の網からこぼれ落ちる人にどう手を差し伸べるか。施策のきめ細やかな改善、柔軟な運用が求められる。(本社報道部・斎藤直幸)

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