東日本大震災

「明日に挑む-芽吹く福島の力」アーカイブ

  • Check

(26)安全訴え販路拡大

地元産の新鮮な農産物が並ぶ道の駅「ふくしま東和」

 古里の野山を駆け回り大きくなった。二本松市の農業法人「きぼうのたねカンパニー」代表を務める菅野(すげの)瑞穂(28)にとって、市内東和地域の緑あふれる里山は心の原風景そのものだ。
 専業農家の長女に生まれた活発な少女は安達高に進学した。カヌー部に在籍し、3年生の高校総体で団体優勝を飾る。東京都にある日本女子体育大に入学し、セパタクローの日本代表選手として活躍した。
 漠然と将来を考えたのは大学3年のころだ。人に雇われるのでなく、会社を経営したい-。起業家の講演を聴いたり、セミナーに出席したりして自分に向く業種を探した。ある日、東和の山々が頭をよぎった。農作業に汗を流す両親の姿が浮かぶ。土の匂いが懐かしくなった。農業を通じ、地方と都会をつなぐ仕事に憧れた。

 平成22年、大学を卒業し実家に戻った。農業法人の設立を目指し、両親に「弟子入り」した。無農薬栽培を学ぶ。害虫駆除など何倍もの手間がかかるが、とにかくみずみずしい野菜、香りと味の良いコメが取れた。
 県の海外派遣農業研修で約1週間、ニュージーランドに渡り、オーガニック栽培を実践しているタマネギ農家などを視察した。順風満帆な日々は翌年3月に起きた東京電力福島第一原発事故で一変する。「県内で農業を続けるのはもう無理だ」と嘆く知人もいた。「負けてたまるか。逆境こそ自分が成長するチャンスだ」。スポーツで培った闘争心がめらめらと燃え上がった。

 放射性物質対策や風評払拭(ふっしょく)に追われる日々が始まる。田んぼの表土を地中の土と入れ替える「反転耕」に取り組んだ。農産物を出荷している地元の道の駅「ふくしま東和」などで、放射性物質検査の結果を消費者に伝え続けた。
 「農業に励む若い女性から福島県の現状を聞きたい」。知り合いから依頼された講演会の講師を積極的に引き受け、県内外に足を運んだ。県産農産物の徹底した検査態勢と安全性を訴えるためだ。
 一時、店頭で見向きもされない時期があった自家生産の野菜やコメは徐々に、消費者の信頼を得て販路を広げていった。
 25年3月7日。25歳の誕生日に、念願の農業法人「きぼうのたねカンパニー」は船出した。(文中敬称略)

カテゴリー:明日に挑む-芽吹く福島の力

「明日に挑む-芽吹く福島の力」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧