東日本大震災

「明日に挑む-芽吹く福島の力」アーカイブ

  • Check

(31)極上の卵を届ける

地元産の餌にこだわって純国産鶏「岡崎おうはん」を飼育している菊地

 相馬市北部の山あいにある大坪地区。のどかな田園風景が広がる一角に、大野村農園代表・菊地将兵(30)の管理する養鶏小屋がある。
 午前6時に決まって顔を出す。自由に駆け回る約320羽のニワトリに餌や水を与える。飼育しているのは純国産鶏の卵肉兼用種「岡崎おうはん」だ。黒っぽい羽が目を引く。もみ殻がぎっしりと敷き詰められた鶏舎内を自由に動き回るせいか、筋肉が引き締まっている。
 体調に変化はないか。こだわり抜いて育てている1羽1羽に緊張したまなざしを向けた。

 卵は「相馬ミルキーエッグ」の名前で販売している。産まれるのは1日に150個ほど。昨年秋に販売を始めたが、予約待ちの状況が続く人気商品となった。
 餌には相馬産のコメや野菜を与える。地元の食材こそ安全に信頼がおけるという信念からだ。消化を促すため、煮込んだ魚のアラや水に溶いたヨーグルトを与える。暑い時期はトマトやスイカ、特製のニンニクエキスを混ぜ夏ばて防止に努める。
 卵の殻は赤身があり堅い。黄身は箸で持ち上げることができるほどしっかりしている。卵かけご飯にすると、豊かな風味が楽しめると評判だ。10個入り1パック700円台と割高だが、わざわざ鶏舎まで買い求めに来る人もいる。
 「人の健康に良いと思うことをニワトリにもしている。旬の物を食べれば体が丈夫になる」と説明する。

 相馬市石上地区の兼業農家に生まれた。地元の小中学校を卒業し、仙台市の高校に進む。その後、全国各地の農家に住み込み農業を学んだ。東京都内で暮らし、いつかは古里に戻りたいと考えていた平成23年3月、東日本大震災が起きた。大変な時だからこそ、古里の農業を盛り上げたい。東京電力福島第一原発事故の影響を心配する周囲の反対を押し切り、2カ月後に帰郷した。25歳の決断だった。
 しかし、現実は甘くなかった。借りた畑を耕し、ブロッコリー、レタス、キャベツなどの栽培を始めた。放射性物質検査で「安全」のお墨付きを得たが、福島県産というだけで売れない。風評の恐ろしさを知った。周囲では農業を諦める世帯も出始めた。それでも自信があった。農産物に付加価値を付ければ、必ず売れる。「健康な土から健康な作物を作る有機農業を極めたいと考えた」と明かす。(文中敬称略)

カテゴリー:明日に挑む-芽吹く福島の力

「明日に挑む-芽吹く福島の力」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧