東日本大震災

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自宅の庭 花で飾る 野菜作りと料理上手

■南相馬市原町区 稲田保次さん(90) リエ子さん(66)

 花に囲まれた幸せな家族の日々。忘れ難く、胸をしめつける。カラーやシャクナゲが鮮やかに咲く季節に、南相馬市原町区本陣前の無職稲田光雄さん(73)は東日本大震災の津波で亡くなった父保次さん=当時(90)=と妻リエ子さん=当時(66)=を静かに思う。

 保次さんは大正10年生まれ。南相馬市の小学校を卒業後、すぐに農業を継いだ。教養豊かで読めない字はほとんどなかったという。
 育った市内原町区小沢には田んぼの持ち主が一人で田植えと稲刈りをする風習がある。どんなに忙しいときでも、保次さんはこれを守った。光雄さんが手伝おうとすると、厳しい声で「手を出すな」と叱りつける昔かたぎ。「コメ、ジャガイモ、ハクサイ...。父が作るものはどれもおいしかった」と、光雄さんの妹川井テル子さん(70)は振り返る。
 光雄さんに嫁いだリエ子さんは料理上手で一生懸命、家に尽くした。「今でもけんちん汁の味が忘れられない」と光雄さんは言葉を詰まらせる。
 保次さんとリエ子さんはともに、花を愛した。稲田家の庭には二人が植えたカラーやシャクナゲをはじめ、アイリス、キクなどが咲き近所でも評判だった。
 5年前の震災の日、光雄さんは保次さん、リエ子さんと小沢地区にあった自宅にいた。大きな揺れが襲った後、リエ子さんと一緒に近所の被害を見て回った。リエ子さんだけが保次さんの様子を確認するため家に戻り、津波に襲われた。保次さんの遺体は翌日、リエ子さんの亡きがらは翌月になって見つかった。
 川井さんは父と兄夫婦が暮らした思い出の住宅跡から花の苗を持ち帰り、原町区雫の自宅庭に植えた。今年もカラーが咲いた。花を摘み取り、10日に光雄さん宅を訪ねた。卓上の花瓶に生けると、部屋の空気が和らいだ。まるで、懐かしい二人がすぐそばにいるような気がした。

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