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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第8部 「一律」の功罪 賠償格差(49) 心の傷に「線引き」 苦痛を招いた新基準

広野町民が暮らすいわき市内の仮設住宅。一部町民は賠償格差による不公平感の解消を求めている

 「町民は苦渋の思いで賠償打ち切りを受け入れた。なぜ不満を蒸し返すようなことをするのか」。広野町の遠藤智町長は、政府が昨年6月に打ち出した東京電力福島第一原発事故に伴う精神的損害賠償の一律継続方針を聞き、がくぜんとした。
 居住制限、避難指示解除準備両区域の住民に対する精神的損害賠償を解除時期にかかわらず平成30年3月まで支払う-との内容だった。原発事故から4年後、突然公表された新基準が招いたのは「賠償格差」という新たな精神的苦痛だった。

 広野町は福島第一原発から半径20~30キロに位置している。原発事故時は緊急時避難準備区域に設定され、町の判断で全町民がいわき市や石川町などに避難した。その後、区域解除に伴い事故発生から1年後の24年3月、役場機能をいわき市から町役場に戻し、少しずつ町民の帰還も始まった。一方で、町民に支払われていた精神的損害賠償金は区域解除から11カ月後の24年8月で打ち切られた。
 新基準前は居住制限、避難指示解除準備両区域の賠償金支払いは避難指示解除の1年後に打ち切る-となっていた。
 新基準によって解除後も数年にわたり賠償が継続される避難区域が出てくる。新基準公表前に既に避難指示が解除されていた地域もさかのぼって対象になる。しかし、広野町は含まれていない。町民の不満が再燃した。
 追加賠償に向けた遠藤町長と政府、東電との交渉は30回を超えた。だが、「原発から20キロ」の線引きなどが壁となり、交渉は進まなかった。町は生活支援金として町民1人当たり現金10万円を給付する独自の支援策を今年5月に打ち出した。町の貯金に相当する財政調整基金を取り崩し、「賠償格差」を町自らが穴埋めする形となった。町は「あくまで帰還に向けた生活支援策」とするが、町民からは「(町民の)不公平感の解消を図る独自の精神的賠償の意味合いがあるのでは」との声が漏れる。

 避難区域解除への呼び水にするかのように賠償の一律継続を打ち出した政府、東電への不信感が今も古里を離れて暮らす住民にくすぶる。いわき市で避難生活を強いられている自営業の男性(52)は「町は事故前の状況まで生活インフラが完全に回復していない。政府や東電は町の現状を理解していない」と嘆く。
 「原発事故で受けた心の傷も線引きされた。なぜ、賠償期間に差をつけるのか。政府の方針は双葉郡の住民間に不要な感情の摩擦を招いてしまった」。町の幹部職員の一人は、やりきれない気持ちを吐いた。

カテゴリー:賠償の底流-東京電力福島第一原発事故

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