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「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故」アーカイブ

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第8部 部営業・精神的損害(51) 識者に聞く

 「賠償の底流・第8部」では、政府、東京電力が示した営業損害の一括賠償と精神的損害賠償の一律継続に潜む問題を追った。「事業所や避難者の切り捨てにつながりかねない」との懸念に対し、原子力損害賠償訴訟に携わる渡辺淑彦弁護士(いわき市)、賠償制度の問題点を調査・研究している除本理史大阪市立大教授はそれぞれ賠償の終期を設けるような対応に疑問を呈し、実態に応じた賠償を継続する必要性を指摘した。

■一律の終期一方的 渡辺淑彦弁護士(いわき市)

 -原発賠償の現状をどう見るか。
 「法律上、放射性物質の作用と損害との間に相当の因果関係があれば、全てが賠償の対象となる。しかし、賠償額は政府が想定した予算をはるかに超え6兆円となっており、国は東電とともに営業損害など賠償の終期を一方的に設定しようとしている。個別事情があり、終期は一律には決められないはずだ」
 -賠償の一括打ち切りを懸念する声が事業者や避難者から上がっている。
 「政府が設定した避難区域と経済的な損害の発生範囲は一致しないはずだ。ところが、東電は避難区域ごとに賠償金額に差を設け、例外をほぼ認めようとしない。損害賠償と被災者の自立に向けた政策的措置は車の両輪の関係にある。避難区域外の事業者に対する営業損害の賠償実例を見ると、切り捨てのような印象を受ける事例がある」
 -東電は営業損害賠償の交渉時、事業者にとっては困難な裏付けを求めるケースもある。
 「因果関係の立証は難しい。被災3県の統計資料やアンケートの活用、取引実態を詳細に説明するなど法律家の助力が必要な場合が多い。しかし、避難区域が設定された地域は法律の専門家が少ない地域でもある。より法的支援を利用しやすい環境づくりも必要だ」
 -今後、賠償制度はどうあるべきか。
 「手続きに時間がかかる営業損害賠償では必ずしも企業救済にはならない場合がある。農林水産業や観光業をはじめ、避難区域を重要な商圏としていた産業などは根強い風評や間接被害が続いているのを素直に認めるべきだ。その上で一方的に終期を設けるのではなく、仮払いの実施などで柔軟に対応すべきだ」

●略歴
 わたなべ・としひこ いわき市出身。磐城高、一橋大、同大大学院法学研究科修士課程修了。平成19年に相馬ひまわり基金法律事務所に赴任。22年、郷里に浜通り法律事務所を開設。原発賠償訴訟などを担当している。45歳。


■実態に即し対応を 大阪市立大 除本理史教授

 -原発賠償に対する評価は。
 「避難先で住居を取得する避難者に配慮した賠償が導入された点は評価できる。しかし、避難区域内に限られ、他の地域では賠償額が低いか皆無で二極化している。政府と東電は賠償の収束を目指しているようだ。この5年で避難区域内の賠償水準は一定程度に達してきているが、終了は時期尚早だ」
 -賠償制度は実態に即しているか。
 「精神的損害や営業損害の賠償がここ1、2年で打ち切られようとしている。原発事故の汚染水問題などで風評は今も続き、先行きは不透明だ。継続的で柔軟な賠償が求められる」
 -広野町は生活支援金を町民に支給する。賠償格差を独自に補う取り組みと捉える町民も多い。
 「賠償格差に不満が生じるのは政府、東電の賠償制度が被害実態に見合っていないためで、より実情に即した賠償が必要だ」
 -今後の賠償の在り方は。
 「古里を追われ、コミュニティーが失われた『地域生活利益』の賠償は手付かずで、『ふるさと喪失の慰謝料』を賠償するべきだ。被災地域の再生は賠償だけでは不可能な上、現在の復興政策では医療・福祉、教育などの分野の再生が遅れがちだ。1人1人のニーズに沿った丁寧できめ細やかな支援策が求められる。復興を確実にするためにも住民がより主体性を発揮できるような復興政策に転換していく必要もある」

●略歴
 よけもと・まさふみ 神奈川県生まれ。一橋大大学院経済学研究科博士課程単位取得。博士(経済学)。専門は環境政策論・環境経済学。公害・環境被害の補償と被災地域の再生、原発賠償などを研究している。44歳。


=「賠償の底流」は終わります。

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