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(38)技を極める 危機感背中押した

斎栄織物の工場内。絹糸をつむぐ機械が動き続ける

 川俣町の斎栄織物はイタリアの大手ブランド「ジョルジオ・アルマーニ」との取引を成功させ、常務の斎藤栄太(35)は業界で生き抜く自信を付けた。その陰で平成20年からひそかに進めていたプロジェクトがあった。世界一薄い絹織物「妖精の羽(フェアリー・フェザー)」の開発だ。完成まで4年を要した。
 きっかけは飛び込みの営業での苦い経験だった。「あなたの会社の強みは何なの」。ファッション業界の関係者から尋ねられたが、即答できなかった。胸を張ってアピールできる武器が必要だ。オリジナルの商品作りを決意する。

 親交のあるブライダルファッションデザイナー・桂由美との雑談からヒントが生まれた。「結婚式は花嫁が人生で一番輝く日。ダンスが踊れるような軽い衣装で負担を減らしたい」
 考えを巡らせた。自社製品の絹の羽二重(はぶたえ)をより軽く、薄くするにはどうすればいいのか。「三眠蚕(さんみんさん)」という3回しか脱皮していない蚕の生糸を使ってみた。通常使う4回脱皮した蚕に比べて、より細くしなやかなため仕上がりの薄さを追求するのに適していた。
 しかし、糸の細さはもろ刃の剣でもあった。髪の毛の6分の1程度しかないため、機械で織ると切れる恐れがある。強度を上げるため糸に700回よりを入れた。試行錯誤の末、手に取っても重みを感じない、空気のような質感の生地が誕生した。
 23年9月、試作品を真っ先に桂に見せた。相手はうなった。そして一言。「これを来年2月のコレクションで使わせて」。世界で高く評価されているデザイナーを満足させる出来栄えだった。桂はさまざまなファッション関係者に、「軽いドレスを作ってほしい」と持ち掛けていた。真剣に取り組んだのは自分だけだったと後で知る。川俣の絹織物業界の未来に強い危機感を抱いていたからこそ果敢に挑戦できた。

 24年3月11日、東日本大震災から1年の節目。妖精の羽を使ったストールを発売した。反響は予想以上だった。都内の百貨店では商品の一部が販売3日目で品切れとなった。
 斎藤は妖精の羽のストールを斎栄織物の商品としてではなく「川俣シルク」としてPRした。自分だけ、という考えでは生き残れない。他の業者と一緒に地域を活性化させたいとの考えからだ。勢いを失っていた「絹の町・川俣」の名前が再び業界に浸透していった。(文中敬称略)

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