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(40)技を極める 最先端の医療発信

心臓の動きをまねたビートの改良に向け、研究を重ねる朴

 1階はガラス張り、2階は白壁。しゃれた外観は一見、建築事務所のオフィスを思わせる。
 福島市野田町の住宅街に9月、開所した「イービーエムふくしま製造開発センターFIST」は、医療機器の開発・販売を手掛けるイービーエム(本社・東京)が運営している。心臓外科手術用の訓練機器を製造するほか、製品を使って外科医が手術のトレーニングをする環境が整っている。
 日当たりの良い吹き抜けのメインロビーが来客を出迎える。大型プロジェクターを完備した研修用ホールなども備え、県が集積を進める医療機器産業のけん引役になると期待される。

 イービーエム社長の朴栄光(34)は東京都生まれの在日韓国人三世で、平成23年に日本国籍を取得した。早大大学院で工学技術を医療分野に生かす研究を進め、24歳で学生発ベンチャーとして創業。国内で年間、約6万5000件の手術が行われている心臓外科手術の訓練機器を開発した。
 心臓の動きを再現する「BEAT(ビート)」は拍動の速度や強弱を微調整でき、血管を摸したシリコン製の「YOUCAN(ヨーカン)」と組み合わせて使用する。ヨーカンは太さや強度が異なったさまざまな種類がそろい、患者の年齢や性別、症状に応じて手術の訓練ができる。縫合後、血液がどの程度流れるかを判定する解析プログラムで模擬手術が成功したかどうか判断できる。
 心臓外科手術は以前、人工心肺に切り替えて行う場合が多かった。近年は患者の体への負担を考慮し、心臓を動かしたまま行う手法が主流となっている。脈打つ心臓と血管を縫合する手術はミリ単位の精度が求められ、難易度は極めて高い。心臓外科医は技術を収得するために経験を重ねる必要があるが、難しい手術だからこそ任せてもらえないジレンマがあった。
 そうした中、朴の製品は経験の浅い医師が時間を見つけてトレーニングを積めると評判を呼んだ。

 イービーエムは順調に売り上げを伸ばし、県の補助金を受けて福島に進出した。地元から10人を新たに雇用し、ビートをさらに使いやすくした「BEAT FUKUSHIMA」の開発を目指す。世界各国から県内に医師を招いて手術講習会を開く計画もある。朴は「福島から最先端の医療を世界に発信していきたい」と意気込む。
 福島には縁もゆかりもなかった。新たな挑戦の場として選んだのは、ある医師との運命的な出会いがあったからだった。(文中敬称略)

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