東日本大震災

「明日に挑む-芽吹く福島の力」アーカイブ

  • Check

(41)技を極める 苦しむ人救いたい

ビートを使って心臓手術の訓練に励む若手外科医

 福島市に心臓外科手術の訓練施設を設けた医療機器開発・販売業イービーエムの社長朴栄光(34)は東京都中央区月島に生まれた。幼い頃から工作好きで将来は科学の研究者を夢見ていた。
 家庭は裕福でなかった。教育熱心だった母親が近くの築地市場で働き息子の学費を稼いだ。芝浦工大に学んだ朴は工学を医療分野に生かそうと決意する。中学時代、食べ物を喉に詰まらせた祖母が目の前で息を引き取った。人工呼吸を繰り返したが助からなかったという。「苦しんでいる人を救いたい」との思いが背中を押した。
 進学先の早大大学院で人工心臓の権威梅津光生(65)に師事し、医療用ロボットの開発を始めた。

 医療の現場で何が必要とされているのか。梅津の紹介で多くの外科医を訪ね、直接話を聞いた。難しい心臓手術の技術を高めようと苦悩する医師に出会い、心を動かされた。
 心臓血管の縫合手術の訓練には豚の心臓や模擬心臓が埋め込まれたマネキンが使われていた。どちらも費用がかさみ、腕を磨ける回数は限られる。若い医師は木綿豆腐や紙ナプキンを心臓に見立てて練習していた。素人目に見ても技能が高まるとは思えない。安価で実際の手術に限りなく近い訓練機器を提供する。目指す方向が定まった。
 東京都大田区の町工場で見つけた形状記憶金属を使い、心臓の拍動を再現する装置「BEAT(ビート)」、数千本のサンプルの中から最も本物に近いシリコンを利用した血管モデル「YOUCAN(ヨーカン)」を開発。商品化に向け、24歳で起業した。従来の製品の半額で、持ち運びできるのが特徴だった。

 最初に製品を購入したのは当時、福島医大付属病院副院長で心臓外科医の横山斉(ひとし)(57)=現福島医大心臓血管外科教授=だ。心臓の動きを工学的な見地から分析する研究を進めており、朴と意気投合した。外科医の立場から研究開発に助言し、他の医師にもイービーエムの製品を勧めた。
 「医療の発展につながる研究を一緒にやらないか」。平成22年、横山が持ちかけた。最大の理解者からの提案に朴の胸が高鳴った。何ができるだろうか。多忙な仕事の合間を縫って考えを巡らせた。医師の手術の技術向上につながる取り組みがしたい-。計画が本格的に動きだそうとしていた翌年の3月11日、東日本大震災が発生した。(文中敬称略)

カテゴリー:明日に挑む-芽吹く福島の力

「明日に挑む-芽吹く福島の力」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧