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「賠償」生業訴訟 賠償求め各地で係争 東電、国の過失有無 争点

提訴のため福島地裁に向かう生業訴訟の原告団=2016年12月

 東京電力福島第一原発事故の被災者でつくる「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟原告団」が東電と国に慰謝料などを求め、福島地裁で係争中の訴訟(生業訴訟)は3月21日に結審する。生業訴訟に先立ち、3月17日には群馬県などへの避難者が東電と国に賠償を求めた訴訟の判決が全国の同様の訴訟に先駆けて前橋地裁で言い渡される。ともに地震・津波対策を巡る両者の過失の有無が最大の争点で司法判断に注目が集まる。

 生業訴訟の主な争点は【表】の通り。過失を巡る判断の鍵を握るのが、政府の地震調査研究推進本部が平成14年にまとめた長期評価だ。「福島沖を含む日本海溝沿いでマグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」とした長期評価を基に東電が同20年に試算すると、津波が高さ10メートルの敷地を大きく上回るとの結果が出た。

 原告側は非常用ディーゼル発電機などが浸水して全電源喪失の危機的状況になり得ることを東電が予見していた-と主張。国も規制権限を適時適切に行使しなかった、としている。

 これに対し東電と国は、長期評価は学者の間でも異論があり、科学的知見として不十分だったとして「巨大津波は想定外だった」と過失を否定する。東電や国は前橋地裁の訴訟や9月に千葉地裁で判決が出る訴訟でも同様の反論をしている。

 生業訴訟の原告数は第1陣の約3900人と昨年12月に提訴した第2陣約300人の計約4200人。県内全59市町村に原告がいる。原告はいずれも、1人当たり月額5万円の慰謝料の支払いと、事故前の水準の空間放射線量に戻す原状回復を東電と国に求めている。

 
 ■生業訴訟の原告 阿部哲也さん(福島市) 次世代のため闘う   
 
 原告と被告の双方の主張が出そろう結審を21日に控え、生業訴訟の原告は、さまざまな思いで節目の日を待つ。

 「原発事故の責任逃れをするような国と東電の姿勢は納得がいかない」。原告の一人で福島市笹木野で果樹園を営む阿部哲也さん(54)は憤りを感じている。

 祖父の時代から3代続くナシ農家。園内には約300本近くのナシの木があり、原発事故後、放射性物質対策で樹皮を全て洗浄した。一方で今もなお、果樹園内には毎時0・5マイクロシーベルト程度を計測する場所がある。

 果樹園を次世代に引き継ぐためにも、土地の原状回復は欠かせない。原発事故の責任を国と東電に認めさせることも生業訴訟の意義の一つだ。「今後も原告団が一枚岩になって闘っていく」と言葉に力を込めた。
 
 ■原発事故との因果関係認定 双葉病院訴訟   
 
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に伴う長距離避難で体調を崩して死亡したとして、大熊町の双葉病院と系列の老人保健施設の患者や入所者の遺族が東電に損害賠償を求めた計10件の訴訟はいずれも終了した。

 東京地裁で5件の判決が確定し、いずれも原発事故と死亡との因果関係を認定。このほか、東京地裁で2件、千葉地裁と福島地裁、地裁いわき支部で各1件の和解が成立した。

 東京地裁の訴訟を担当した福島市の新開文雄弁護士は、因果関係を認定した点について評価する一方、「遺族の思いを十分にくみ取ってもらえなかった部分もある」と無念さをにじませる。

 新開弁護士ら弁護団は、日弁連が作成した交通死亡事故の損害賠償基準に照らし合わせ、交通死亡事故の慰謝料2千万円をベースに、原発事故の社会的影響などを考慮して1・5倍相当の3千万円が慰謝料として妥当-と主張。しかし、東京地裁は全ての訴訟で慰謝料のベースを2千万円とし、そこから患者や入所者の持病、既往症などを理由に2~4割を減額した。

 新開弁護士は「何の落ち度もない高齢者が避難を余儀なくされた原発事故の『特殊性』を考慮してもらえなかった」と判決を総括した。

 原発事故の避難を理由に将来を悲観し、自殺した人の遺族が東電に損害賠償を求めた訴訟も各地で審理が続いている。福島地裁では飯舘村の当時80代女性の遺族が起こした訴訟と同村の当時102歳だった男性の遺族が起こした訴訟の計2件が係争中となっている。

 南相馬市の女性の遺族が市の下した震災関連死不認定処分の取り消しを求めた訴訟は昨年12月、原告側が上告を断念し、控訴審で一審同様に請求棄却となった判決が確定した。

 
 ■ADR 申し立て大幅減 28年は3千件割り2794件   
 
 東京電力福島第一原発事故の被災者が、損害賠償の増額を求めて原子力損害賠償紛争解決センターに東電との和解仲介を依頼する裁判外紛争解決手続き(ADR)の平成28年の申立件数は、2794件となった。24年から4年連続で4000件を超えていたが、大幅に減少した。

 今年2月17日現在の累計で申立件数は2万1679件に上り、このうち75%に当たる1万6221件で和解に至った。平成26年に申し立てが5217件、和解成立が4438件を記録。ともに過去最多となり、以降は減少している。

 センターは申立件数が減少した理由を、生活を再建できた被災者が増えつつあるためとみている。

 和解成立が進む中、難航していた避難区域などの住民による集団ADRで、東電が和解案を受諾するケースが出てきた。

 居住制限区域の飯舘村比曽地区の住民が隣接する帰還困難区域との賠償格差の是正を訴えたADRでは、東電が2月に38人分の合わせて約2億6300万円の支払いを受け入れた。センターは166人に精神的賠償計13億5400万円を払う和解案を提示していた。

 浪江町民の7割に当たる約1万5千人が参加しているADRは、和解案に応じなかった東電が2月に75歳以上の高齢者1人との和解を成立させた。月10万円の精神的賠償に一律5万円を上乗せし、75歳以上にはさらに3万円を増額する和解案だった。

 ただし、25年5月の一次申し立てから既に3年以上が経過し、高齢者は早急な解決を要望している。町と弁護団は二本松市や東京都などで住民説明会を開き、他の町民の和解も成立させるよう東電に呼び掛けた。

 新たに集団申し立てに踏み切った例もあった。国から緊急時避難準備区域に指定された広野町の住民約200人は昨年11月、精神的賠償の追加請求や不動産の価値減少分の賠償として総額約33億円を求めた。

 
 ■地元の声 丁寧に聞く 文部科学省原子力損害賠償対策室次長 山下恭範氏に聞く
 
 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の事務局である同省原子力損害賠償対策室の山下恭範次長に、今後の賠償の在り方などについて聞いた。

 ―県原子力損害対策協議会などが裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解事例を類型化して指針に反映するよう求めている。原子力損害賠償紛争審査会の鎌田薫会長は、現時点で指針を見直す必要はないとの考えだ。理由を伺う。
 
 「もともと指針は迅速かつ一律に救済するためにある。一方、ADRは個別対応で、それぞれ背景が異なっている。直ちに指針に反映するのは難しいと思う。仮に、個別事情によらず、これだけたくさんの人に共通しているという具体的なケースがあれば話は違ってくると思うが、そこまでの要望は受けていない。審査会は年一回は現地視察を行い、被災地に向き合いながらやっているが、鎌田会長以外の委員も早急な対応は必要ないと受け止めている」
 
 ―ADRを巡っては東電の対応に不満の声が多い。国の評価を伺う。
 
 「現時点で東電拒否による打ち切りはないなど、目立った問題があるとは思っていない。審査会の委員も同じ受け止めだ。ただ、個別対応で不十分な点はあるだろう。指針でも事故と相当因果関係のある逸失利益はきちんと支払うべきというのが基本だ。審査会で問題がないか確認したり、東電の姿勢を正したりすることもある。今後も丁寧に見ていかないといけない」
  
 ―農林漁業や商工業の風評被害はいまだ根強いが、原発事故から時間がたつほど損害との因果関係を立証するのが難しくなる。東電はどのように対応すべきと考えるか。
 
 「避難区域外の農林業賠償の30年1月以降の対応については、29年中に調査し、地元とさまざまな対策、販売ルートの拡大などの手を打った上で方針を決めることになると聞いているので、しっかり注視していく」
 
 ―飯舘村、川俣町山木屋地区、浪江町、富岡町の居住制限、避難指示解除準備両区域が間もなく解除される。本県復興の重要なポイントであり、指針の見直しを検討すべきではないか。
 
 「われわれも未来永劫(えいごう)見直さないということではない。審査会の委員の皆さんとは、こうした変化の時こそ丁寧に地元の声を聞くことが大切だと話している。加えて、審査会を開くタイミングをきちんと検討する必要がある、との意向も受けている。どういう課題が顕在化するのか見極めていきたい」
 
 ■略歴   
 やました・やすのり 大阪府茨木市出身。京都大工学部卒。平成8年、旧科学技術庁(現文部科学省)に入庁。国際原子力機関(IAEA)物理課、在ロシア大使館一等書記官、文部科学省官房文教施設企画部計画課企画官などを歴任し、昨年4月から現職。44歳。

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