放射性物質トリチウムを含んだ東京電力福島第一原発の処理水を巡り、東電の川村隆会長が「(海洋放出の)判断はもうしている」と発言したのを受け、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は19日、川村氏を呼んで厳重抗議した。川村氏は「真意が伝わらなかった。会社としても個人としても海洋放出を判断した事実はない」と釈明した。
全漁連の岸宏会長は「発言は漁業者と国民への裏切り行為。地元漁業者の怒りと不安は極めて大きい」と批判した。同席した県漁連の野崎哲会長は「唐突な発言に大きな不安と不信感を持たざるを得ない」と述べた。
川村氏は「海洋放出を会社として決定したかのような報道が出たのは、誠に残念だ。結果的に関係者に不安や迷惑を掛けた」と陳謝。トリチウム水の扱いについて「国や漁業者、関係者と慎重に検討を進める考えに全く変わりはない」と述べた。漁連側は発言の撤回を求めたが、撤回はしなかった。
抗議を受けた後、川村氏は記者団に「(海洋放出を巡る)科学的な安全性と社会的な問題のうち、科学的安全性に関して、国の基準通りなら安全だと判断していると申し上げた」などと主張した。
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全漁連の岸会長、県漁連の野崎会長らは同日、経済産業省で高木陽介経済産業副大臣と面会し、トリチウム水を安易に海洋放出しないよう要請した。
岸会長らは「全国の漁業者は不安を持っている」とし、海洋放出がされないよう東電への指導を求めた。高木氏は「(東電会長の発言は)漁業関係者に限らず、流通や消費者も含めて心配した。トリチウム水の放出は国の小委員会で地元の意見を聞きながら議論している最中で、安易な放出をしない方針に変わりはない」と述べた。
■抗議文を送付県水産市場連
東京電力の川村隆会長の海洋放出に関する発言を受け、県内の水産物卸業者でつくる県水産市場連合会は19日までに、川村会長宛てに抗議文を郵送した。
抗議文では、川村会長の発言について「いわれなき風評被害を助長させるだけでなく、県産水産物の安全性回帰や風評被害撤廃に努力してきた努力さえも水泡に帰すほどの重大な失言」と批判し、発言を撤回するよう求めている。
同連合会の石本朗会長は福島民報社の取材に「われわれの我慢にも限度がある。県民の気持ちを無視しており、強い憤りを感じる」と語った。
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