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似顔絵いつか描くね 夫の笑顔今も心に

■門馬麻野さん(39) ~南相馬市~

 南相馬市鹿島区の門馬麻野(まや)さん(39)は東日本大震災後、似顔絵を描き始めた。震災の津波で夫孝文さん=当時(35)=を失い、悲しみを少しでも和らげたかった。
 震災から間もなく7年になる。夫を描きたいと考えているが、ためらいが先に立つ。遺体や身に付けていた品々が見つかっておらず、いまだに実感が湧かない。「夫は本当に亡くなったのだろうか。ひょっこり戻ってくるかもしれない」
   ◇   ◇
 2011(平成23)年7月、死亡届を出すべきか、悩んだ。「この世から夫の存在を消してしまう」。罪悪感にさいなまれた。
 「もし、本人が戻ってきた場合はどうなるのでしょうか」。すがる思いで鹿島区役所の窓口で尋ねた。「裁判所に申し立てをすればいつでも取り消せますよ」。心情をおもんぱかる職員の言葉に救われた。
 デザインの専門学校で学んだ技能を生かして男性アイドルの似顔絵のデッサンを翌年に始めた。だが、長続きはしなかった。手元に描きかけの作品が残る。
 知人との間で震災が話題に上る機会は減り、家族の死に話が及ぶと過敏に反応することも少なくなった。大きく変わった震災後の日常にも慣れ、心のゆとりを取り戻しつつある。
 「自分の心が死を受け入れようとしているのかもしれない」。ただ、夫の位牌(いはい)を前に、進んで線香を手向ける気持ちにはまだなれず、筆を持つ気力も起きない。
   ◇   ◇
 孝文さんとの間に女の子3人を授かった。長女泉月(みづき)さん(16)は高校1年生、次女佑さん(12)は中学1年生、三女咲和(さわ)さん(9つ)は小学3年生になった。娘たちが大きくなるにつれ、夫の面影を娘たちの中に見るようになった。
 昨年秋、家族でテレビ番組を見ていた時だった。人気ロックバンド「X JAPAN」のメンバーだった故hideさんの「ever free」が流れた。「この曲いいよね」。泉月さんがつぶやいた。孝文さんも大好きだった。目頭が熱くなった。同時に心の中でつぶやいた。「コーラが好きなのも、あなたにそっくりよ」。子どもたちの心の中でも孝文さんは生きていると確信している。
 「もうちょっと時間がたてば、現実を受け入れられるようになるかもしれない。その時は似顔絵を描いてあげるね」。脳裏に刻んだ笑顔に語り掛けた。

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