東日本大震災

【震災から7年】「農林水産業再生」 2017年度県産農産物輸出量、震災前の水準超

2018年3月 8日 18:00

 県産農産物の2017(平成29)年度の輸出量は昨年12月上旬までに153トンを超え、震災と原発事故前の水準を初めて上回った。東南アジアへのコメや桃の輸出増加が主な要因で、県はさらなる輸出促進を目指す。

 ここ数年間の輸出量の推移は、震災と原発事故が発生した2010年度は152・9トンだったが、2012年度には2・4トンまで減少した。その後は回復し、2017年度に初めて2010年度を上回った。

 県は昨年8月、マレーシアの現地企業と県産米百トン、県産桃15トンを輸出することで交渉が成立した。県は農産物の輸出量増加について、マレーシアやタイなどへの輸出拡大が主な要因とみている。

 2017年にタイ、マレーシア、インドネシアの東南アジア3カ国に輸出された県産桃は日本産全体それぞれ94・8%、72・5%、51・7%に達し、いずれも産地別シェア(市場占有率)で日本一となった。3カ国でのシェア日本一は2年連続。

 県はさらなる輸出拡大に向け、欧州連合(EU)による輸入規制緩和など国際情勢の変化を踏まえた新たな輸出戦略を年度内に策定する。2020年度までに、酒類や加工食品などを含めた県産品5分野について輸出額ベースで2016年度比の約3倍となる計12億円の輸出を目指す。

 内堀雅雄知事は3月22日から26日までロンドンとパリを訪れ、英仏両国の政府関係者や市民らに県産農畜産物や日本酒などの魅力を伝える。


■コメ、果実の輸出拡大 検査徹底や情報発信 信頼回復に全力

 東京電力福島第一原発事故は県内の農林水産業を一変させた。あれから間もなく7年−。県産農林水産物は徹底した放射性物質対策と検査で安全性が担保されているにもかかわらず、依然として価格低迷などの影響を受けている。一方、国内最大手のスーパーチェーンでの県産牛の取り扱い再開やコメ、果実の輸出拡大、木材生産量や漁獲量の増加など明るい兆しも出始めている。

 2012(平成24)年に始まった県産米の全量全袋検査で、2015年産以降は検査した約3千万点全てが食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)以下となっている。このうち99・99%以上は測定下限値(1キロ当たり25ベクレル)未満となっている。

 基準値を超える検体が年々減少した要因について、県はセシウムの自然減衰に加え、イネがセシウムを吸い上げないよう、カリウム肥料の追加散布や土壌の深耕・反転耕などの吸収抑制対策を講じた成果とみている。カリウム肥料の追加散布を必要とする市町村は年々減っており、2018年産は県内市町村の約半分で散布をしないで構わない状況となる見通しだ。

 最後に基準値を超えた2014年産の2点については、吸収抑制対策が実施されていなかった。

 東京大大学院と福島大などが昨年2月、国内外の約1万2500人を対象に行った県産食品の風評に関する調査で、「県産農産物は不安だ」とした回答は欧米よりアジア圏で多く、台湾で81・0%、韓国69・3%、中国66・3%に上った。

 調査に当たった東京大大学院の関谷直也情報学環総合防災情報研究センター特任准教授は国外で本県のイメージが原発事故直後から回復していない側面があるとし、「これまでの放射性物質対策や検査結果を、より積極的に発信する必要がある」と指摘している。


■2020年にも 抽出に移行 県産米全袋検査

 県産米の全量全袋検査が見直される運びとなった。今後も全ての検体で国の基準値を超えない場合、早ければ2020年産から抽出検査(モニタリング検査)に移る。生産者が自宅で消費する分についても一般に流通するコメと同時期に抽出検査に切り替わる。

 全量全袋検査では2015(平成27)年産以降、放射性セシウム濃度が食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えた検体はない。県は2019年産までの検査で全ての検体が基準値を超えなければ、2020年産から抽出検査に移行できると判断した。

 抽出検査の手法は「一農家から数点」「一市町村から数点」などが想定される。県は2018年度中にコメの集荷業者らを交えた検討組織を設け抽出手法の協議を始め、2020年春までに検査手法を最終決定する。

 県は当初、生産者が自宅で消費する分について、自宅と検査場を行き来する手間が農家の負担となっているとして、希望制の検査とする案を検討会に示していた。しかし、希望制にした場合、未検査のコメが流通し県産米全体の信頼を損なう恐れがある−との指摘を受け、一般出荷分と同じ扱いとする。

 ただし、避難指示後に営農を再開した地域では当面、全量全袋検査を継続する。稲作の再開状況に差があり、県は各市町村と協議した上で今後の対応を決める。全量全袋検査を巡っては、検査が県産米の安全性の担保となっているとして継続を望む声がある一方、検査の負担軽減を求める声も出ていた。

※全量全袋検査 東京電力福島第一原発事故が発生した翌年の2012(平成24)年から、全ての県産米を対象に行われている放射性物質検査。県や市町村、JAなどでつくる「ふくしまの恵み安全対策協議会」が主体となり、県内173の検査場で、主に30キロのコメ袋をベルトコンベヤー式の検査器に通して測定している。年間60億円弱の費用がかかり、毎年度、約52億円を東電に請求し、残りは国の補助金を充てている。


■農業産出額 震災前水準に戻らず

 2016(平成28)年の県内農業産出額は2077億円(第一報)で前年と比べて104億円増えたが、震災と原発事故発生前の2010年の水準には戻っていない。県産農産物の価格はコメなどで全国平均との差が縮まっているが、和牛は依然として差が開いたままだ。ただ、国内最大手のスーパーチェーンのイオンリテールで今月から県産牛の販売が再開し、全国のスーパーや小売店でも県産牛を積極的に仕入れる動きが出ると期待されている。

 農業産出額の推移は、2010年は2330億円だったが、2011年は1851億円に減少。2012年は2021億円、2013年は2049億円と回復したが、2014年は全国的な米価下落に伴うコメの産出額減少などの影響で1837億円と再び落ち込んでいた。

 コメや桃、肉用牛(和牛)の価格の推移は、2017年のコメ60キロ当たりの相対取引価格は全国平均と比べて295円安い1万5244円で、価格差が震災と原発事故後、初めて300円以内となった。

 一方、2017年の肉用牛(和牛)1キロ当たりの価格は全国平均と比べて273円安い2318円。震災と原発事故後に価格差が広がり、依然として縮まっていない状況だ。


※全量全袋検査とは

 東京電力福島第一原発事故が発生した翌年の2012(平成24)年から、全ての県産米を対象に行われている放射性物質検査。県や市町村、JAなどでつくる「ふくしまの恵み安全対策協議会」が主体となり、県内173の検査場で、主に30キロのコメ袋をベルトコンベヤー式の検査器に通して測定している。年間60億円弱の費用がかかり、毎年度、約52億円を東電に請求し、残りは国の補助金を充てている。


■「農林水産業再生」JA福島五連会長 大橋信夫氏に聞く 正しい情報、正しく発信

 JA福島五連の大橋信夫会長に県内農業の現状や風評払拭(ふっしょく)に向けた方策を聞いた。

 −県産農畜産物の風評の現状をどう捉えているか。

 「除染や放射性物質の吸収抑制対策、放射性物質検査によって安全で安心できる生産出荷体制が確立されているにもかかわらず、風評で下落した価格は回復していない。欧州連合(EU)の日本産食品の輸入規制緩和など明るい動きもあるが、韓国や中国などの東アジア地域では風評は根強い。原発事故の負のイメージが固定化したまま風化してしまうのを懸念している」

 −風評を払拭し、生産者の所得を向上させるための取り組みは。

 「情報公開とリスクコミュニケーション(危険に関する正しい認識や情報の共有)を進めながら積極的に販売促進活動を展開し、県産農畜産物への正しい理解を促す必要がある。具体的には、首都圏などの消費者との交流事業を展開したり、マスコミを活用して放射性物質検査の方法や検査結果といった安全性に関わる情報を発信したりする。販路拡大には、6次産業化の取り組みも有効だ。県内JAの商品開発の優良事例などを共有しながら6次化推進に向けた方策を検討し、生産者の所得向上につなげる」

 −県産米の全量全袋検査で、県は今後も全ての検体で国の基準値を超えない場合、自家消費分も含めて早ければ2020年産から抽出検査(モニタリング検査)に移行する方向性を決めた。

 「重要なのは、(1)今後の検査結果を踏まえる(2)消費者や流通業者への理解促進を進める(3)自家消費米も含めて全量全袋検査を続ける−としている点だ。JAグループの思いが反映されたと言える。われわれも消費者、流通業者らへの理解促進に努め、ふくしま米の評価や信頼を一層高めたい」

 −農産物の安全認証制度「GAP(ギャップ)」普及の方策は。

 「2020年の東京五輪・パラリンピックに食材を提供するにはGAPなどの第三者認証の取得が不可欠だ。生産者の認証取得を支援するため、各JAや連合会の担当者らに対し、GAP指導員や産地リーダーの資格を取得するよう促している。GAPの取り組みを通じ、『ふくしまブランド』の再構築を進めていく」

 おおはし・のぶお 伊達市梁川町出身。福島農蚕(現福島明成)高卒。2003(平成15)年7月からJA伊達みらい組合長を務め、2010年6月にJA福島五連副会長に就いた。2014年6月から会長。70歳。