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ことばの部屋(12) 月極駐車場 戦後に消えた読みと表記

 「月極駐車場」という看板をよく見掛ける。かつては「月極」の読み方がわからず、「げっきょく」とか「げつごく」と読む人が多かったが、今では「つきぎめ」という読み方がだいぶ定着してきたようだ。だが、読み方がわかっても「月極」と書いて、なぜ「つきぎめ」と読むのか、すっきりしない人は多いだろう。

 江戸後期の式亭三馬『浮世風呂』(1809~13年)に、銭湯に入っている娘たちのこんな会話がある。「アノ、きれいなお女中でございませう」「アア、さやうさ」「まことにお上手だネ。根揃ひから何から極まったものだ」。「極」を「きまる」と読んでいる。

 この娘たちは琴の稽古(けいこ)の約束で、こんな会話もしている。「ハイ、さらひませう。そんならさくらがり、江の島、長恨歌、とそれから住よし」「それから那須野」「さやうさやう。まァさう極めて置きませう」「ヲヲ、嬉しい嬉しい。サアサアサア今宵は大だのしみ大だのしみ」。「極」を「きめる」と読んでいる。

 近代になっても同様で、夏目漱石は、「極まって居る」「極め込んで居る」「極め付けた」などと書き、「極」を「きまる」「きめる」と読ませている。江戸時代から第二次世界大戦ごろまでは、「極」を「きまる」「きめる」と読むことが普通であり、辞書の見出しにも「きめ」や「きめる」には「極」の字が使われていた。

 ところが、第二次世界大戦後、それまであった漢字は整理されることになり、昭和21(1946)年に「当用漢字表」、その2年後の23年に「当用漢字音訓表」が制定されると、「極」の字に「きまる」「きめる」の読みは認められず、「きわまる」「きわめる」「きわみ」の読みだけが掲げられた。これによって、次第に「極」の字に「きめる」の読みがあったことが忘れられてゆき、「月極」の字が読めなくなってしまったのだ。

 現在、多くの国語辞典は「月極」を常用漢字音訓表外の字として、見出し語の下に注で付けており、新聞などでは常用漢字にのっとり、「月決め」と表記している。また、学校の国語教育では「月ぎめ」と仮名で書くことが望ましいとされており、「月極」の表記は認めていない。「月極」は読み方や表記を奪われても、駐車場の看板にだけ慣例的に残っているのだ。

 こうなってくると、「月極」以外の看板の存在が気になってくる。北海道や高知には「月決駐車場」の看板が多いという。本県にもあるのだろうか。基準に素直に従った、「月決め駐車場」や「月ぎめ駐車場」はあるのだろうか。駐車場の看板を注意深く観察したい。(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

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