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ことばの部屋(46) つらら 板状の氷から棒状の氷へ

 冬に屋根などから少しずつ落ちる水が凍って、棒のように垂れ下がったものが、つららだ。子どものころ、かやぶき屋根にできたつららを取って、よく遊んだ。太いつららが取れると、「黄金バットのシルバーバトンだ!」と言って、得意になっていた。

 「つらら」は、もともと、地面や水面に張った板状の氷を指し、屋根などから垂れ下がる棒状の氷は「たるひ」と言った。「ひ」は「氷」のことで、「垂れ下がった氷」なので「垂る氷」というわけだ。平安時代の『源氏物語』(末摘花)に、「朝日さす 軒のたるひは 解けながら などかつららの 結ぼほるらむ」という歌がある。この歌の「たるひ」は棒状の氷で、「つらら」は地面の氷である。「朝日がさして軒のつららは解けているのに、どうして地面の氷は凍ったままなのでしょうか」という意味の歌だ。

 「つらら」の語源は、『大言海』に「滑滑(つらつら)の約か」とあり、柳田国男は「ツラはごく古い頃から、表滑らかにして光ある多くの物に付与せられた形容の語」と述べている。つるつるして光沢のあるものを表す擬態語がもとになっているようだ。『天草版平家物語』(1592年)には、「ツララ」に「軒などから氷の長う下がったをいふ」という説明があり、『日葡辞書』(1603年)には、「ツララ 軒端に垂れ下がっている垂氷」とある。地面や水面に張った氷を意味していた「つらら」が、現在のように垂れ下がった棒状の氷を意味するようになったのは、室町時代からのようである。

 「つらら」の意味変化により、「たるひ」は古語になってしまったが、方言として岩手県や宮城県には残っている。本県の中通りや浜通りの北部には、「つらら」の方言として、「たりひ」や「たれひ」がある。また、秋田県には「たろっぺ」や「たろんぺ」がある。これらはすべて「たるひ」が原形である。平安時代の古語が形を変え、方言として残っているのだ。

 雪や雨で道路が凍りついて、滑りやすくなっていることを「たっぺ」と言う。この「たっぺ」も「たるひ」が原形であり、語源は同じである。
(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

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