情報ナビ「たいむ」

  • Check

ことばの部屋(60) 梨 語源「味」か「形状」か

 甘くてみずみずしい梨は、秋の果物の代表だ。梨を食べると、シャリシャリした食感とともに甘い果汁が口いっぱいに広がり、昔の人が、果物を水菓子と呼んでいたことが、よく分かる。

 『日本国語大辞典 第二版』で梨の語源説を見ると、「ナカシロ(中白)の略」、「風があると実らないところから風ナシの義」、「ナス(中酸)の転」、「奈子の字音か」、「つぎの年まで色が変わらないところからナマシキの反」、「ネシロミ(性白実)の義」、「アマシ(甘)の義」の7説がある。この中で注目したいのが、「ナス(中酸)の転」だ。梨を食べると、最初は甘いが、だんだんと中の芯に近くなると酸っぱくなる。甘くておいしい実の中に、酸っぱい部分があることは、昔の人にとって強烈な印象だったに違いない。この説は、江戸中期の語学書『東雅(とうが)』(1717年)にある新井白石の説であり、江戸後期の国語辞書『和訓栞(わくんのしおり)』(1777~1887年)にもある。

 語源研究者の吉田金彦氏は、『万葉集』にある「妻梨木(ツマナシノキ)」を「端無(ツマナシ)の木」と解釈し、みかんや柿などの果実は先が出ているのに、りんごと梨だけは、実の先端がへこんでいて端がない状態であることから、「妻梨」は「端無」の掛詞であり、「ナシ(梨)の語源はナシ(無)の同音異義語ではないだろうか」と推測している。こうなると、味に着目したナス(中酸)説を支持していた私も、形状に着目したツマナシ(端無)説が気になってくる。

 手紙を出しても返事が来ないことを、「梨のつぶて」という。投げたつぶて(小石)は戻らないことからいわれているこの言葉も、「梨」に「無し」を掛けた言葉である。また、梨は「無し」に通じることを嫌って、「有りの実」とも呼ばれている。どうやら、「梨」と「無し」は無関係ではなさそうである。(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

カテゴリー:ことばの部屋

「ことばの部屋」の最新記事

>> 一覧

情報ナビ「たいむ」の最新記事

>> 一覧