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ことばの部屋(80) げた 高さの低い足駄から

 夏祭りや花火大会になると、浴衣姿で歩く人たちのげたの音が聞こえてくる。カランコロンと鳴り響くげたの音は、夏の風物詩の一つだ。旅館でも外出用として玄関に、げたをそろえているところが多い。浴衣に着替え、げた履きで温泉街を歩くのもいいものだ。

 げたは、弥生時代の遺跡から出土した田げたがあることからもわかるように、日本には古くからあった履物だ。田んぼの泥の中で足が沈まないようにと考えて作られた田げたは、農作業のためのものであったが、中世の絵巻物には身分の高い人がげたを履いている絵がある。庶民の履物として定着したのは江戸時代になってからで、昭和30年代ごろまでは、日常の履物として用いられていた。げたには足を置く板の下に2本か1本の歯がある。木をくりぬいて作ったものは高さが低く、別に作った歯をはめ込んだものは高さが高い。

 げたは古くは「足駄(あしだ)」とか「木履(ぼくり)」と呼ばれていた。「下駄(げた)」と呼ばれるようになったのは、中世末からである。「下(げ)」は低いという意味で、「低い足駄」が「下駄」というわけである。近世になると、江戸では高いものを「足駄」、低いものを「下駄」と呼んで区別していたが、上方では区別せずに両方とも「下駄」と呼んでいた。語源研究者の吉田金彦氏は、「アシノケタ(足桁)の略音から変じた」という説を立て、「ゲは低い物の意のゲ(下)で、ダは足をのせる板の意味であるアシダ(足駄)のダを転用したとも見られるが、本来は、並んだ柱の上にわたす材のことをケタ(桁)ということの類推が基本にある」と述べている。なるほど、橋桁の「桁」からも、げたを連想することができる。吉田氏の説も気になるところである。

 現在、日常的にげたを履くことは少なくなってきたが、学校などの下足置き場は「げた箱」であり、1階が商店や事務所になっていて、2階以上が住居になっている建物は「げた履き住宅」と呼ばれている。また、「げたを預ける」や「げたを履かせる」という慣用句も使われている。げたのことをあれこれ考えていたら、子どものころにこっそりと履いた祖父の大きなげたを思い出した。この夏は、げたを履いて散歩を楽しむことにしよう。
(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

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