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ことばの部屋(82) 浴衣 風呂用の単衣の着物

 花火大会や盆踊りなど、夏の行事には浴衣で出かける人が多い。浴衣姿で歩く人たちの表情は、どこかうれしそうだ。これから始まる花火や盆踊りにわくわくしているだけでなく、浴衣を着ているという、普段の日常とは違うハレの日の感覚を味わっているからだろう。

 「ゆかた」は「ゆかたびら(湯帷子)」を略した言葉である。「ゆかたびら」の「ゆ」は風呂で、「かたびら」は単衣(ひとえ)の着物だ。つまり、「ゆかたびら」は風呂に入るときや上がったときに着る着物のことである。風呂に入るときに着るといっても、着物を着たまま湯の中に入るのではない。平安時代の風呂はサウナのような蒸し風呂だったので、熱い蒸し風呂の中で、汗を吸い取り、やけどを防ぐために着たのが「ゆかたびら」である。

 やがて、浴槽に湯を沸かして入るようになってからは、湯上がりに着るようになり、そのまま外を出歩くようにもなった。当時の風呂は銭湯なので、家から銭湯までの行き帰りにも着るようになり、家の中でも外でも気軽に着られるようになったのだ。江戸時代になると、風呂に関係なく、夏に着る単衣を「ゆかた」と言うようになった。「浴衣」を当て字にしたのも江戸時代からである。

 浴衣は、風呂の中で汗を吸い取らせることから始まり、湯上がりに体を拭いたり、着てくつろいだり、そのまま外に出たり、寝間着にしたりと、時代とともに用途が変わってきた。バスタオルやバスローブ、パジャマのように利用されてきたのである。

 花火大会や盆踊りなどの夏の行事に浴衣を着て出かけることも庶民文化として江戸時代から盛んになり、明治時代には夏の普段着として定着した。しかし、第二次世界大戦後は洋式化の加速に伴い、服装が和服から洋服へと変化し、浴衣を普段着にする人は少なくなってきた。だが、これは考えようによっては、浴衣にとって決して悪いことではなかったように思う。それは、普段着から特別な日(ハレの日)に着る晴れ着になったと捉えることができるからだ。

 夏の行事という特別な日に、お気に入りの浴衣を着て、心躍らせながら出かけることができるのは、浴衣が晴れ着になったからである。(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

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