情報ナビ「たいむ」

  • Check

ことばの部屋(92) から揚げ─その1─ 多くは「唐揚げ」表記

 揚げたてはもちろん、冷めてもおいしいから揚げは、おかずの定番にもなっている。スーパーのお総菜売り場やコンビニでは「からあげ」や「から揚げ」と表記されていることが多い。平仮名表記だとわかりやすいし、カラッと揚げてあるというプラスのイメージも帯びるからだろう。漢字表記には「唐揚げ」と「空揚げ」がある。よく見かけるのは「唐揚げ」で、「唐」から中国伝来を連想することもできるが、「空」からは何を連想するだろう。

 『角川必携国語辞典』で「からあげ」を引くと、「【空揚げ・唐揚げ】衣をつけないで、油であげる調理法。また、あげたもの」とある。衣をつけないから「空」なのだ。二つの漢字表記で「空揚げ」を先に示していることにも注目したい。ほかの辞書はどうなっているのかと調べてみたところ、22冊のうち18冊が「空揚げ」を先に示していて、「唐揚げ」を先に示している辞書は4冊だけだった。ほとんどの辞書が「空揚げ」優先になっているのだ。

 だが、私たちがいつも食べているから揚げには小麦粉などがまぶしてあるし、実際に使われている漢字表記は「唐揚げ」が圧倒的に多いのが実態である。そこで、現代日本語の姿を忠実に反映させていることで定評のある『三省堂国語辞典』を古いものから調べてみた。すると漢字表記は、第三版(1982年)で【空揚げ】となっているが、第四版(1992年)から【空揚げ・唐揚げ】となり、第七版(2014年)では【唐揚げ・空揚げ】と逆転しているのだ。

 さらに意味説明を見ると、第五版(2001年)までは「ころもをつけない材料を油であげ・ること(たもの)」となっているが、第六版(2008年)からは「肉・魚・野菜などを、ころもをつけないで、または、小麦粉などをうすくまぶして、油であげ・ること(たもの)」となっているのだ。さすが、徹底した実態調査で、現実の日本語に強い辞書である。このように辞書の版をさかのぼることも、言葉の表記や意味の変化を知る手がかりになるのである。

 10年ぶりの改訂で話題になっている『広辞苑 第七版』で「からあげ」を引いてみた。漢字表記は【空揚げ】だけ示し、かっこ書きで(「唐揚げ」とも書く)と付け加えてあった。意味説明も『三省堂国語辞典』を超えるものにはなっていない。「第六版を全面的に見直した」と出版社の新刊案内には書いてあるのだが...。
(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

カテゴリー:ことばの部屋

「ことばの部屋」の最新記事

>> 一覧

情報ナビ「たいむ」の最新記事

>> 一覧