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ことばの部屋(99) バイト敬語 不自然でも配慮あり

 居酒屋に入ると「いらっしゃいませ!」という元気なあいさつの次に、「テーブル席でよろしかったでしょうか?」と聞かれる。注文するものを伝えると復唱し、「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」と確認され、注文したものが運ばれてくると、「こちらハイボールになります」「串カツになります」と言いながら1品ずつ置いていく。飲食店やコンビニエンスストアなどで若いアルバイト店員が使うこのような言葉を「バイト敬語」という。

 バイト敬語は、気になる言葉として話題にされる。普段の日常生活では使わない不自然な言い回しに違和感を持つ人が多いからだ。確かに、まだ席に着いていないのに「よろしかったでしょうか」と過去形で聞かれたり、たった今、注文したものを過去形で確認されたりすると不自然に感じるだろう。しかし、現在形で「よろしいでしょうか」と聞かれると、直接的で選択の余地がなく、押しつけがましい感じがする。だから過去形にしてぼかすことによって、丁寧さを表しているのだと考えることもできる。人に食べ物を勧めるとき、「よければどうぞ」と言うより「よかったらどうぞ」と言ったほうが丁寧だし、言われたほうも気持ちがいいのと同じだ。

 「こちらハイボールになります」も不自然だ。いつなるのだろう。ウイスキーを炭酸水で割って、もうハイボールになっているのだから、「こちらハイボールです」でいいはずだ。それなのに「です」を使わないのは、「です」は直接的で断定的なので、「なります」を使ってぼかしたほうが、やわらかくなり丁寧な感じがするからだろう。

 コンビニなどで会計のとき、1000円札を出すと、「1000円からお預かりします」と言われる。この「から」も不自然だ。これは「1000円をお預かりします」と「そこ『から』代金をいただきます」を合わせた表現であり、「お釣りをお返しします」という意味も含まれている。「いただきます」や「頂戴します」とは決して言わず、「お預かりします」と言うところが配慮しているところだ。代金が1000円でお釣りが出ないときでさえも「1000円ちょうどからお預かりします」と言う。これも不自然ではあるが、お客さまに対する丁寧な心配りだろう。

 バイト敬語は、若者がアルバイトで意識的に使っている接客用の改まった言葉であり、気になる言葉とされながらも全国的に使われ続けている生命力の強い言葉なのである。
(福島市、日本語学会会員・小林初夫)

■経歴
 こばやし・はつお 相馬郡小高町(現・南相馬市)生まれ。NHK方言監修者。宮城教育大学非常勤講師。福島県警察本部指定教養講師。著書(共著)に『全国方言一覧辞典』(学研)、『都道府県別全国方言辞典』(三省堂)、『調べてみよう暮らしのことば』(ゆまに書房)など。

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