2010年9月10日()

論説・あぶくま抄

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所変われば品変わる(7月25日) 

 「どこの国がよかったですか?」「新しい技術に出会いましたか?」など、海外に出掛ける機会が多かったころ、よく質問されたものである。そんな時、「所変われば品変わる」と答えていた。
 スウェーデンでの国際会議では、インド人教授の家庭での会食に招かれた。大学までの教育費が無料なので、子供が大学を卒業したら、税金の安い国で職を探すことにしていると話していた。
 ある時、ノルウェーで会議の後、1日だけわが家、翌日に中国桂林に出発という旅程があった。
 ノルウェーでは、フィヨルドの船旅をする機会があり、そこには度々某国の潜水艦が出没すると聞いた。水深の深いフィヨルドでは、ある深さで水の密度が変わり、音波が反射するため、探索装置が働かない。潜水艦は、音波の届かない水中を潜航して越境するらしい。後日これが発覚したのは、潜水艦が故障して浮上したからである。
 桂林でも川下りをすることになり、山水画の世界を肌で感じることができると船に乗った。周囲の山々は絵の通りであり、水は澄んですばらしい船旅であった。ただ、川底には、欠けた茶わんや皿の破片が沈んでいた。そして、絶景が風景に変わった。
 緑輝く山肌、氷河に削られ、岩をむき出しにする川岸と真っ青な水をたたえたフィヨルドを見た2日後に、山水画の世界に飛び込んだことになる。同じ川下りでも、情景はこんなにも違う。
 旧ソ連邦崩壊直後のモスクワで国際会議が開かれた。その開催案内時には、ソ連邦は存在しており、会議場は、避暑地の要人用施設という触れ込みであった。
 しかし、冬の開催にも関わらず、部屋の暖房は止められ、毛布1枚だけで夜を過ごした。そこで、ドイツの友人とモスクワ市内のホテルに宿を取ることにした。ホテルに着くと、各階の入り口がフロントになっていた。つまり、個人が各フロアを借り切り、部屋貸しの営業をしていたのである。
 西ベルリンでの国際会議に出席した時、東ドイツの貨幣は「アルミチップス」と呼ばれているという会話があった。その意図がつかめないでいたが、帰国して約1カ月後にベルリンの壁が崩壊した。
 先日、ある新聞に、日本から海外留学する若者が減少しているという記事が掲載されていた。前述した体験が、私のその後の人生にどのように役立っているのかは明らかでない。しかし、異文化に触れ、それを肌で感じた経験は、ものごとを多面的に見ることを教えてくれたように思う。
 もちろん国内旅行でもさまざまな体験ができる。それが無理ならば読書がある。異文化ばかりでなく、過去を知ることもできるし、多くの考えを学ぶことができる。
 そして、所変わって、品が変わった時、その背景を探ることにしている。そうすれば、品を変える手段を知ることができると思っている。(日大副総長・工学部長)