【強制起訴無罪判決】東電の責任は依然重い(9月20日)

2019/09/20 09:27

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 東京電力福島第一原発事故を巡る強制起訴裁判で、東電旧経営陣三人に無罪が言い渡された。東京地裁判決に割り切れない思いは残るが、詳細な検討を重ねた結果ではある。しかし、あくまで三人に問われた業務上過失致死傷罪に対する判断だ。東電が原発事故に対する責任を免れたわけではない。

 裁判は、福島第一原発に十メートル超の津波が襲来する事態を予見できたかどうかが大きな争点とされた。津波担当の東電社員らは、大津波が発生する危険性や具体的な対策を経営陣に伝えていたと証言した。旧経営陣は「長期評価への評価は分かれ、根拠がないと感じた」などと説明し、津波は想定外で対策を先送りした事実はないと強調した。

 担当者は長期評価や試算結果を踏まえて動こうとした半面、旧経営陣は抑制的な構図が公判で浮かび上がった。こうした社内体質は果たして健全だったのか。刑事責任とは別に、東電自らが検証してしかるべきだ。

 十九日の判決後、東電はコメントを出しただけで記者会見に応じなかった。三人の刑事責任を問う訴訟である点を理由にした。裁判は、旧経営陣の刑事責任の有無とともに、原発事故が起きた経緯と原因を解き明かす狙いもあったはずだ。東電の姿勢は、事故当事者としての意識に欠けると言わざる得ない。

 争点の長期評価について、判決は「具体的な根拠を示さず、客観的に信頼性、具体性があったと認めるには合理的な疑いが残る」と指摘した。専門家による国の地震調査研究推進本部がまとめた評価の根幹が揺らぎ、国の地震対策の在り方も問われる形となった。国は検討の手法や経緯、妥当性を厳しく分析する必要がある。

 避難者が国や東電に損害賠償を求める集団訴訟は全国で相次いでいる。前橋地裁が二〇一七(平成二十九)年、「長期評価は合理的で東電は巨大津波を予見し、事故は防げた」と判断して以降、東電の責任を認める複数の判決が出ている。一方で、予見可能性を否定する判例もある。

 国家が個人に刑罰を科す刑事裁判は、民事裁判と比べて立証の壁が高い。東京地裁判決が民事裁判に影響を及ぼせば、原発事故で苦しむ人々を救済する道は狭まる。引き続き個別の検討が不可欠だ。

 無罪判決への失望が広がっている。東電は、民事裁判を含め賠償に真摯[しんし]に対応しなければならない。復興や廃炉も確実に進めなければ、信頼は取り戻せないと肝に銘じるべきだ。(五十嵐稔)