【東電裁判の意義】全容の解明につなげよ(9月21日)

2019/09/21 09:11

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 東京地裁が東京電力の旧経営陣三人に無罪を言い渡した福島第一原発事故の強制起訴裁判は、多くの県民に「判決に納得できない」との思いや、戸惑いをもたらした。

 法廷で旧経営陣が質問に答え、津波対策の必要性を考えていた社員が証言した。強制起訴がなければ公にされなかった事実も分かり、裁判の意義は大きかったといえる。

 二〇一七(平成二十九)年六月の初公判で、勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の三被告はいずれも無罪を主張した。以来、二年三カ月にわたり、十九日の判決公判を含めて計三十八回、開かれた。東電社員や地震研究の専門家ら合わせて二十一人を証人尋問した。

 東電の原発設備管理に携わった担当者は「重要設備の水密化や防潮堤建設など複数の津波対策を講じるべきだった」と述べた。津波対策工事を行わなかった旧経営陣の判断を、別の社員は「予想外。力が抜けた」と証言した。検察官役の指定弁護士は、津波対策に関してやり取りされた土木担当者のメールを証拠として提出した。浮かび上がったのは、安全対策を巡る経営陣と現場担当者の認識の違いだった。

 判決は、津波という自然現象が重大事故を引き起こす可能性を指摘した。その上で「事故発生の可能性がゼロないし限りなくゼロに近くなるように、必要な措置を直ちに講じることも社会の選択肢として考えられないわけではない」と、検察官役の指定弁護士の主張に一定の理解を示した。原発を運転する電力会社に、十分な安全対策を講じなければならないとのメッセージを投げ掛けた。

 企業が関わる大事故で、社内にいる個人の刑事責任を問う壁は高い。企業や組織の法人に罰金などを科す「組織罰」の導入を求める声が、司法関係者の中に上がる。今回の判決が新しい制度をつくるきっかけになってほしい。

 未曽有の原発災害がなぜ起きたのか。裁判によって、その原因や背景の一部が明らかにされたが、十分ではない。原子力規制委員会は原発事故の調査を再開する方針を決めた。最初の調査で二〇一四年に中間報告がまとめられたが、現場の放射線量が高く、把握できない事項があった。廃炉作業が進み、再調査が可能と判断し、二〇二〇(令和二)年内をめどに報告書をまとめる。

 検察官役の指定弁護士は控訴を検討する。規制委の再調査とともに、事故の全容と責任の所在が一層解明されるように望む。(川原田秀樹)