緊急時聴覚障害者SOS救え 遠隔手話やスマホ活用

2020/01/05 09:33

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台風19号当時の状況を説明する佐藤邦子さん。浸水した自宅ではリフォーム工事が進んでいた=2019年12月23日、郡山市安積町
台風19号当時の状況を説明する佐藤邦子さん。浸水した自宅ではリフォーム工事が進んでいた=2019年12月23日、郡山市安積町

 二〇一九年十月の台風19号を教訓として、緊急時に聴覚障害者が助けを求める手段が注目される。浸水した地域で自宅にいた聴覚障害者が逃げ遅れたり、救助隊員らの声に気付けず取り残されたりするケースがあった。郡山市など県内の一部地域ではテレビ電話の遠隔手話サービス、文字で一一九番通報できるシステムの導入が進む。一方で各市町村間の対応には温度差があり、スマートフォンなどに不慣れな高齢者への普及なども課題に浮上している。


■気付かぬ兆候

 台風19号で床上浸水被害に遭った郡山市安積町の佐藤邦子さん(66)は夫栄治さん(71)とともに聴覚障害者だ。二人暮らしのため、激しい雨音や、緊急車両のサイレン、呼び掛けなどに反応しづらい。台風19号の際、一階で寝ていた邦子さんが浸水に気付いたのは十月十三日午前三時ごろだった。

 会話のやり取りが必要になるため、二人にとって自力での一一九番通報は難しい。このため、郡山市が二〇一九年度に始めた「遠隔手話サービス」を使って救助を求めた。

 スマホのアプリでテレビ電話をつなぎ、市の手話通訳者に手話で状況を伝えた。市から通報を受けた消防隊によって救出されたのは午後二時ごろだった。邦子さんは「サービスがなかったら、二人でどう対応していたものか…」と振り返る。

 福島市消防本部は昨年四月から県内で初めて、聴覚や発声に障害がある人がスマホを通じて文字で一一九番通報できる「Net119緊急通報システム」の運用を始めた。

 住所や障害の内容を事前登録し、専用アプリの画面上で「救急」「火事」などの項目を選ぶ。文字による会話機能を通して状況を細かく伝えられ、衛星利用測位システム(GPS)によって発信位置を特定できるメリットもある。

 二〇二〇(令和二)年度には県内十二消防本部のうち福島を含めて九本部に導入が広がる予定だ。


■普及への壁

 通報支援制度の普及で課題も浮かび上がっている。県内で遠隔手話サービスを導入したのは郡山市、いわき市など一部にとどまる。国が推奨しているが、活用は市町村レベルでの判断となり、財政的な負担や受益者の数が少ないことなどを背景として、自治体間で対応に差が出ている。

 郡山市は県内最多の聴覚障害者を抱え、二〇一五(平成二十七)年に東北で初めて手話言語条例を設けた先進地でもある。市の担当者は「関係者から導入を求める要望が多かった」と経緯を明かす。

 福島市障がい福祉課によると、高齢の聴覚障害者の中には、かつて十分な教育が受けられず、文字の読み書きが苦手な人がいるという。Net119緊急通報システムの運用に当たり、担当者は「スマホの購入や契約、設定といった手続きも大きな負担になる」と指摘。説明会の開催などを通して浸透に努めるとしている。


■高齢化の波

 県障がい者総合福祉センターによると、二〇一九年四月一日現在、県内の聴覚障害者は六千九百八十三人。また、聴覚障害を含む身体障害者八万一千五人のうち、六十五歳以上の高齢者が占める割合は75・9%と、一九八九年の48・5%からこの三十年間で大きく増えている。

 県聴覚障害者協会によると、台風19号で浸水被害が出た伊達市梁川町で、浸水した自宅で救助を待っていた聴覚障害者の高齢夫婦が、消防隊がドアをたたく音に気付かずに取り残されたケースがあったという。吉田正勝会長は「授受できる情報が少ない、ろうあ者にとって通報の選択肢が増えるのは良い」とした上で「デジタル技術の発展から取り残されてしまう人もいる。改めて行政や地域住民間で支援が必要な人の把握に努めてほしい」と日頃からのケアの大切さを訴えている。