【映画「風の電話」】「生きる」を考える(1月22日)

2020/01/22 10:17

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 映画「風の電話」が二十四日から全国公開される。亡くなった大切な人へ思いをつなぐ「風の電話」がモチーフで、楢葉町や富岡町などで撮影された。郡山市出身の西田敏行さんをはじめ出演者のせりふから「生きていくこと」や「ふるさとへの思い」について考えさせられる。

 「風の電話」は岩手県大槌[おおつち]町に実存し、電話ボックスの中に線のつながっていない黒電話が置かれている。「天国につながる電話」として知られるようになり、東日本大震災後、今でも多くの人が訪れる。

 映画の主人公は大槌町出身の女子高生ハルで、震災で両親と弟を津波に奪われた。伯母の住む広島県に一人で避難して八年余りが過ぎた。心に深い傷を負ったハルは本県や宮城県などを通って大槌町まで旅に出る。途中、本県出身で同じく震災で家族を失った元原発作業員らと出会い、誰もが悲しみや悩みを抱えながら生きていることを知る。そして映画の終盤で「風の電話」の受話器を取り、家族への思いを伝える。

 モトーラ世理奈さんがハルを演じ、他に実力派で人気俳優の西島秀俊さん、三浦友和さんらが出演する。西田さんは浜通りの住民役で登場し、震災や東京電力福島第一原発事故で苦しむ本県の実情をほとんど台本なしのアドリブで話す。西田さんが福島弁で語るシーンは胸に響く。

 公開を前に昨年十二月、東京で西田さんとモトーラさんに単独インタビューした。西田さんは「ふるさと福島の人たちの思いを代弁する気持ちだった。演じているというより自分自身を語っているみたいだった」と撮影時を振り返った。県民へのメッセージとして「震災や原発事故から立ち上がる、という気持ちを心の中に持って前向きに過ごしていただきたい」と語った言葉が印象に残った。

 主演のモトーラさんは浜通りでの撮影現場で地元の人との交流が忘れられないという。「すいとんや地酒もとてもおいしかった」と笑顔を見せた。県民の温かいおもてなしが演技を陰で支えた。諏訪敦彦監督は「映画は見た人の経験と思いが重なって初めて完成される」と語る。多くの人にそれぞれの作品を「完成」させてもらいたい。

 震災と原発事故から三月で十年目に入る今年、復興に向かう本県への関心の希薄化が首都圏などで懸念されている。映画や演劇、音楽などの芸術を通して、本県のありのままの姿を広く発信していくことは重要であり、応援していこう。(真田 裕久)